尾道に紙片という本屋さんがある。
ご飯屋さんの横の細い路地を、まっすぐ行かないとたどり着けないので隠れ家的な存在になっている。私はそこが大好きなので、尾道に行くことがあればいつも行っている。
「私は何が何でも千光寺の山に登りたいので、2人は私を置いて紙片で本でも買ってカフェなどでゆっくりしてほしい」と言ってお友達の理性ちゃんとは別れ、もう一人一緒にいたすずめちゃんと本屋に向かった。なにがなんでも寺に登りたい女を引き止める術は特にない。自然と別行動ができる関係性は心地よい。
紙片に来た。今日も素敵な空間である。
洒落た音楽が流れる中で本を選ぼうとすると、なんとなくいつもは手に取らない本をとってしまう。
ふとレジの方の本が積みあげられているスペースを見ると、すずめちゃんが信じられないくらいニヤニヤしていた。
「なに読んでんの?」
そう言いながら近づいたら、すずめちゃんが持ってる本の表紙が目に入った。
官能小説用語表現辞典
「いや、何読んでんの??????」
もう一回言った。
このオシャレ空間で官能小説用語表現辞典を手に取り堪えきれないという顔でこちらを見てくるすずめちゃん。
「いや、あのね、とりあえず読んでから言って」
すずめちゃんに手渡されて、本を開いてみる。
鉄梃魔羅(かなてこまら)
これでもかというくらい強そうな表現の男性器名称が目に飛び込んできた。
この用語辞典。女性器、男性器のあらゆる表現が2300語字に渡り載っており、用例付きで紹介してくれているのだ。
「いや、メチャクチャ面白いじゃん」
「面白いでしょ!?」
「これ買うしかないな・・・」
2人でコソコソと言っていたら、店長が小声で「在庫ありますよ・・・」と言ってくれた。
2人で官能小説用語辞典を取り合ってるように見えたのだろう。「我々は20半ばにして何をやっているんだろうか・・・」と恥じらいを持ちながら、「ひとつください」と迷いなきまなこで言った。
ここからは官能小説用語表現辞典にあったピリきゅうが好きなワードを紹介します。
中身のネタバレになりますので、買って熟読したい紳士淑女の皆様は飛ばして結構です。
ピリきゅうが選ぶ!
最高の官能小説用語!
〇女性器編〇
「小さな島」
(出典:豊田行二『野望証券マン』)
島好きのわたしには見逃せない表現でした。使い方は「洪水の中に小さな島を探り当てた」らしいです。上陸しないと島には何が眠ってるか分からないことにも通じており、なかなか奥深いですね。
関係ないですが、大学時代バイト先の先輩に酔って初体験の話を聞かされた時、「俺は穴蔵の中で宝石を掴んだ」と言ってました。あの当時はマジで何言ってんだろうと思いましたが、今では一体どういうことなんだろうと思えますね。
〇男性器編〇
「形状記憶合金」
(出典:南里征典『特命 猛進課長』)
初めて見た時は、まあなんて上手いのだろうと思いました。「わあ硬い!これって形状記憶合金みたい!」という使われ方をしてるらしいですが、そんなハツラツとしたテンションで出るワードなのか形状記憶合金。
ちなみに女性器を表すワードは、どこか全体的にどこか儚げで頼りないのに対し、男性器は常に屈強な感じがしてました。
男性像女性像が現れてるみたいで面白いですね。
最後は絶頂表現編です。
〇絶頂表現編〇
「浮遊するっ」
(出典:安藤仁『花唇の誘い』)
浮遊はしないだろ。
行為に及んでる最中相手が浮遊したらメチャクチャ怖い。ポアと叫ぶ他ないだろ。
ピリきゅうが気に入ったのは以上です。
官能小説ってエッチなだけじゃなくて、他の小説にはない言語感覚があって、その言語感覚に周波数を合わせようとすることによって、世界にズブズブと惹き込まれるからすごいなと思う。
作家の執念と、性の面白さが知れる本でした。
他にも2300語の言葉が並んでるので、皆さん買ってください。
枕元に置いて毎日ひとつ覚えよう。
合コンでお気に入りの男性器の呼び名を山手線ゲームで言っていこう。
せーの!パンパン!鉄梃魔羅(かなてこまら)!
https://www.amazon.co.jp/dp/4480422331/ref=cm_sw_r_cp_awdb_c_82MxDbE8BK1CF