リハビリ人生

知り合いに「アケスケなブログ」って言われました。あけみって名前のスケバン?って思ってたら赤裸々って意味でした。

春は奇人の季節

春といえどもまだ寒い日だった。

出張から家に帰るために高速バスの待合室に並んだイスに腰掛けた。
手にはミルクティと巷で話題のバスチーという菓子。私の脳内は目の前のバスチーという美味そうな菓子で頭がいっぱいだった。

 

最近、腹の周りにムニムニするなぞの物体がついているのだが、私は本来痩せているのでこのムニムニした物体はいつでも切り離せるはずなので、カロリーとかそういうのは気にしないのである、激ウマのチーズケーキが目の前にあるのだ、これを食べないことは目の前のチーズケーキにも失礼だ、今日は頑張った、だから私は今、このバスチーを食べるのであ

 

「人間はいつか根絶やしになる。絶滅こそが最高」

 

あ?
人が今バスチー食おうとしてる時になに?
急にパワーが襲ってきたけど?

前を見ると20代くらいの男が大きな声で電話をしていた。人類の根絶やしを希望してるのはどうやら目の前のこの人らしい。私はバスチーをとりあえず口元から離した。

 

「だから!!!俺がAIを初めて作った人間なの!4年前に!」

 

マジで?
そうは見えないけど。

AIの始まりって4年前なん?
すごいでかい声で話すので、思わず聞き入ってしまう。

 

「俺が2012年にAIを作って、それ以降俺の技術をパクッたのにも関わらず、なんの見返りもよこさない無責任な白人共が悪い。
世界権力は約立たずのマザコン共。自惚れを守るためにしか行動しないから問題が何も解決しない。しかも全員ゴキブリ並みの生命力だ。一般人がいくら人材投資をしたところで、マザコンしか生まれない世の中なんてクソ喰らえって思わないか?。ロイヤルファミリーはさっさと一家心中しろ」

 

オウオウオウオウ!!!
やべぇじゃんコイツ!!!


バスチー食ってる場合じゃないよ!!と私はバスチーをコンビニ袋にしまった。
私の目の前で世界を舞台にした話を展開するAIの父。根絶やし男。こんなヤバい奴の話を聞きながら、バスチーとか食いたくない。たぶん味とか分からない。

ところで根絶やし男、作ったと大口を叩く割には具体的にどんなものなのかが出てこないのはなんなんだ。企業名も出てこない。怪しさ満点だ。
あとなんでこいつの話し方こんな洋画の吹き替えみたいなんだ。ゴリゴリのジャパニーズバンドマンみたいな顔してるのに。

 

「ということで俺は、アンタに要求がある」

あ、ここまでは自己紹介だったらしい。
確かにくいつかせるには充分の素材だ。
就職面接ならもう帰ってもらうけど。

 

「というわけで俺はAIの使用料1ヶ月10円を要求する」

 

安!!!!!!!!
うまい棒でも買うんか!?!?

 

「1年で120円。100年で12000円。」

 

そうだね!単純計算だとそうなるね!
親切な説明!

 

なぜ10円なのか全く意味がわからなかったが、根絶やし男は拒否をする相手に対して「はぁ?俺はだから4年前AIを作って〜」と相変わらずの吹き替え口調で同じ説明を繰り返していた。でかい要求を持ってくるわりに、具体的な説明がない。ただ洋画独特のボケを交えて悪口を話してる。「オムツと白人の関係性は深い」って言ってた。HAHA!なるほど!こいつァいいぜ!
というか電話の向こう側誰がいるんだ。早く切れよ。我慢強いな。

話を聞いていると
根絶やし男の要求は

・AI使用料10円を払うこと
・AIに自由権をもたせること
・AIによる人間の監視システムを作ること

のようだった。全然何が目的なのかよく分からない。

私は根絶やし男の話を聞いていたら、バスチーを食べ損ねて、なんならバスも乗り遅れていた。バスだけにね!HAHA!こいつァ愉快だ!

もうここまで来たら乗りかかった船だ。こいつの目的がなんなのか、話してる相手は一体誰なのか、全部突き止めるまでこいつの話に耳を傾けてやるか。
そう意気込んだその時、根絶やし男は急に席を立った。


そして、人が密集している席に座り直してまた話を始めた。


よく見ると、私と根絶やし男が座っていた席の周りにはびっくりするほど人がいなかった。1回子供連れの女の人がそそくさと席を後にしたのは見たが、どうやら根絶やし男の挙動が怪しすぎてみんな席を離れたらしい。

 

根絶やし男は人が多くなった場所で、また同じようにコミカルに身振り手振りを加えながら、バスを待つ客席にチラチラ目を配り、大声で話していた。

 


たぶんあの電話はどこにもつながってなかったんじゃないかと思う。


私は次のバスの時間を調べ、バスチーを口に入れた。肌寒い気温と裏腹に、春の訪れを感じていた。