リハビリ人生

知り合いに「アケスケなブログ」って言われました。あけみって名前のスケバン?って思ってたら赤裸々って意味でした。

私にVIOの処理をさせるな、お前に人の心があるなら

「すいませんが、この状態では今日はできませんね・・・」

申し訳なさそうに微笑む彼女の腕には一本の無駄毛もない。

 

 

 

全身脱毛に去年から通っている。

自分の体毛に少なからず不満を感じる部分があったのは確かだった。少なからずと言ったが、どちらかと言うと大いにある。カウンセリングの際、「毛なんてまつ毛と髪の毛以外にいらないんですよ」というサロンのお姉さんの大見栄きった発言に心を打たれ、通うことに決めた。

 

「脱毛に来る前にはご自分で毛の処理をして来てくださいね。」

 

と説明を受けた。ただ、うなじと背中に関しては自分でしようにも届きようがないので、機械を当てる前にサロンで剃ってもらえるらしい。

もう何年も毛の処理とは付き合ってるので、それは別に構わないと思っていた。

「うなじと背中以外」にVIOが含まれていることを私はかるーく考えてた。

 


シャワーを浴びる。ボディソープで体を洗うときに体毛を剃る。慣れたルーティンだ。

しかし、いつもと違いどこか緊張が帯びている。私は今日VIOを剃るのだ。

デリケートゾーン用に買ったヒートカッターはうやうやしく浴槽のヘリで出番を待っている。

体を洗い終わりシャワーで泡を流す。諸君、私は今からVIOを剃るのだ。大業を果たす私を応援したまえ。流れゆく泡を見ながらヒートカッターの電源をいれる。

 

ブブブブブブブブブブブブ

 

一回電源を切る。

 

え?

音大きくない?こんなもん?

 

ヒートカッターが思ったより勢い良く震えたことに、私は少々驚いた。

一回浴室から出て、投げやりに捨ててあったヒートカッターの箱を見る。デリケートゾーン対応の文字がある。オッケーオッケー、マジ需要と供給に適ってますわ。風呂椅子に座り、もう一度電源をいれる。

 

ブブブブブブブブブブブ

 

一回電源を切る。

 

首を下に曲げ、股の間を覗き込む。

 

え?

この森みたいなとこにコレ今から持ってくの?ヤバくない?

 

急に事実が色味を増して迫ってきた。いや股の間にあるのは漆黒がごとき森なので色味はないのだけれど。

その富士の樹海みたいなとこを、得体の知れない震える刃物が今から迫るのだ。正気?考えた奴本当に人間?

 

よく考えたらこんなマジマジと股の間を覗き込むなんて体験は今までなかった。

遠い昔、どうなってるのか気になって真ん前に手持ち鏡を置いて「グロすぎワロタ」という感想を抱いてから以来、なんなら直視するのを避けていたかもしれない。

 

人体の中でもそこそこ日々関わりを持っている箇所の割に顔を合わせたことがほぼと言っていいほどない。

この体をつかさどっているいわば社長らしき立場としては「いつもよく頑張っておるな」と肩でも叩いてやるべきなのだろうが、肩を叩こうものにも「グロすぎワロタ」な見た目がそれをさせようとしないのだ。


「もう少し可愛い見た目をしていたら扱いを改めてやらんこともないのに」と長年差別主義者のパワハラを働き続けてきたツケが今回ってきたのだ。


今こそコイツと向き合う時だ。久しぶりに顔を見たら意外に可愛い顔をしてるかもしれない。

社長は心に愛情を、右手にヒートカッターを持ち、樹海の中にいる社員に会いに行った。

 

 

 

 

「あ〜・・・お客さんVIOの処理初めてなんですね〜」

 

サロンのお姉さんに開けっ広げに股を広げている。私はその言葉の言わんとする意味をすぐ理解した。

毛の処理が甘いと機械がうまく反応しないため、施術をしてもらえないのだ。

凹んでいる私に、お姉さんは一生懸命、VIOの処理の仕方を説明してくれた。恥ずかしげもなく色んな体勢を取ってくれている。そこまでするならもう私の毛も剃ってほしいと思う。

腕に一本の無駄毛もないお姉さんの肌は光っている。彼女は自分の社員を一人残さず大切に扱っている社長なのだろうなと考える。

 

 

 


一ヶ月後、私はまた風呂椅子に座りヒートカッターを眺めている。脱毛は明日に控えている。1ヶ月間無視した結果、樹海は過去の勢いを取り戻しつつある。

今回こそは……。そう思い、カッターの電源をつける。


ブブブブブブブブブブブ

相変わらず大きくなる音。別の部屋でテレビを見てる親に、娘がVIOの処理をしているとバレたくない。そんな羞恥心は捨て、私は必死に目の前の樹海に立ち向かった。

「ぬおおおおおおおお」


私はやる気に満ち溢れていた。樹海から余すことなく木を伐採しようというやる気に。木は微動を続けるカッターによって無惨になぎ倒されていく。


ブブブブブブブブブブブ

「おらおらおらおらおらおらおら」


所詮毛は無力だ。根っこを生やし、迫りくる私から逃げることもできない。私はチェーンソーを持って樹海を暴れ回った。一ヶ月で生えた毛はみるみるうちに減っていく。

フハハハハハハハ!!!!!どうだ参ったか!!!!!毛の分際で私をなめるのも大概にしろよ!土下座して謝れ!!!!!!!!フハハハハ!!!!


ブブ・・・


一度電源を切る。


ふと自分を鏡で見る。

立ち上がってガニ股にしたまま腰を折りたたみ、股の間から顔を覗かせている自分と目が合う。

意味の分からない体勢をとりまくって体はバキバキ言っている。


私は一体何をやっているんだ?

一日中働いて帰った後に、なんで風呂で汗だくになりながら股から顔をだしてるんだ?

風呂はいつから戦場になったんだ?

 

「私パ〇パンなんですよー」

そう赤裸々に言って笑うギャルモデルは、皆こんな面白いポーズをとっていたのか。

これが世界の真実か。ギャルは風呂場で泣いている。自分の股間の業の深さを、月に一度目の当たりにしている。

 

私の脱毛は明日に迫っている。

私もコイツと向き合わなければいけない。

 

悲鳴をあげている肩と首を無視して、ヒートカッターを手に取った。

 

 

 

 

 

「女性器がチ〇コくらい面白い形してたら、こんなに処理が憂鬱にならない気がするんだよな。」

 

サロンであられも無い姿になったまま、友達が言った謎の主張を思い出す。毎回大変な思いをしているのは、私だけではないと思い返す。


処理がVIOに移る。隠していたタオルがはぎとられる。

寝たフリをしながら緊張で身体を強張らせる私。

お姉さんは妖艶な笑みを見せながら言う。

 

「ここ、一本毛が残ってるので避けて機械あてますね〜」

 

ギャルが落ちる地獄は加湿器アロマのいい匂いがする。

今日も鬼の毛は、顔から下に1本も生えていなかった。