最近ジムへ行っている。
目に見えて分かるほど肥満体型というわけではないが、普段着痩せしてる分脱ぐと負の「私脱いだらすごいんです」を体現している。ガッカリを略した方のガリだ。ジムに行けば運動不足も何もかも解消してくれるはずという期待を込め、入会をした。
その日もいつも通りランニングマシーンに乗っていた。初回の日、ジムのスタッフが出払っていてろくにマシーンの説明を受けなかったので、アホの一つ覚えのように延々とランニングマシーンに乗っている。
疲れるが、疲れより汗をかく気持ちよさの方が上回っている気がする。
ランニングマシーンのスイッチを切り、「ランニングマシーン降りた後ってメチャクチャ歩くの早くなったように錯覚するよな」とボンヤリ思いながら休憩所のベンチに座った。
?「君さあ、走り方ヘンだよ」
いきなり話しかけられ、驚きつつ振り向いた。
そこには青い蛍光色のタンクトップを着た、筋肉質のオジサンが立っていた。
・・・・・・誰???
入ったばかりのジムに知り合いはおらず、見ず知らずのオッサンに話しかけられたことに戸惑いを感じた。
筋肉オジサン「僕、このトレーニングルームから君の走り方ずっと見てたんだけど〜」
見るな。そこそこ距離のある位置から。
筋肉オジサン「君、着地する足が内向きになってるからX脚気味になってるんだよね。それだと膝を痛める可能性もあるから気を付けた方がいいよ。」
おじさんは私にジェスチャーをしながら説明をしてくれた。確かに私は小さい頃からX脚がコンプレックスで何回も直そうとしたものの気を抜くと出てしまうのだった。おそらくがむしゃらに走っていた所を見られたのだろう。
ありがたいものの、私にとってはある意味分かりきった指摘であるため、どこか気まずさを感じ「ありがとうございます、気をつけます〜」と言いながらトイレへそそくさと向かった。
トイレから出る。
オジサンはトイレ近くのトレーニングマシーンを使っていた。「なんだったんだ」と思う反面、言っている相手がムキムキであることにジワジワと説得力を感じていた。
私は再びアホの一つ覚えでランニングマシーンに乗る。
「まあ実践してやらんこともないが?」と言わんばかりに着地の位置を少し意識してみた。元よりまっすぐ歩くのが苦手なので、意識したところですぐに改善できないのは分かっている。
まあおじさんももう見てないだろう、と視線を少し後ろにやった時だった。
私の真後ろの腹筋トレーニングマシーンにオジサンは移動していた。
・・・・・・・・・おや?
いやいや偶然だろうと思いつつ、なんとなくランニングマシーンを降りてストレッチゾーンに移動する私。何の気なしにバランスボールに乗る。
たまたま腹筋を鍛えたくなったのだ。はたまたオジサンのルーティン移動がかぶっただけかもしれない。気のせい気のせい。
自分に言い聞かせながら後ろを見る。
オジサンは私のすぐ近くで腕を鍛えていた。
なに????ついてきてる????よな??
バランスをとりながら考える。気のせいという可能性が勢いよく減っている。
別の器具に移動する。
乗ると小刻みに揺れる立っているだけの器具だ。(私は今のところこれとランニングマシーンしか使い方が分かっていない)
2分くらい経ったあと、ブルブル揺れながら少しだけ振り返った。
オジサンは真後ろで腹筋を鍛えていた。
いる〜〜〜!!!!
真後ろで腹筋を鍛えるな。ていうかさっき鍛えてただろそこ。もういいだろ鍛えなくても。
親切なオジサンこと、変態マッスルタンクトップは私が移動する度に私の近くに移動しているらしかった。
なにそれ?ジム内ストーキング?どういうタイプの刑事罰?
そして改めて、自分が今トレーニング器具によって身体が小刻みにふるえているという事実に気づく。
もしかして今オッサン、腹筋を鍛えながら私のブルブルしてるケツを見てる????
位置的には私がおしりを向けているのは確かだ。見られているとしたら、ジム内ストーキングに加え、オジサンには別の重罪が課せられないと困る。
ただ、私がこの構図を俯瞰して認識していることにより、ここには「腹筋を鍛えながら女のケツを見てるオッサンとオッサンにふるえるケツを見せつける女」という新たな構図が発生するのである。私の心はふるえた。(ケツはずっとふるえている)
私はこんなことをするためにジムに入会したのか?何のために生まれて・・・何をして喜ぶ・・・・・・・・・・・・
私はスイッチを切り、更衣室へ向かった。
ジム終わりに鏡を見るとなんとなく痩せている気がする。今日あったことは忘れよう。何が悪い夢でも見たのだ。
そう思いながら着替えて、更衣室を出た。
出口へ向かう前に、ジムの中を見る。
そこにオジサンの姿はなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・マジの夢?
「ついてこられている気がする」「見られている気がする」は結局全部自分しか証人がいない話だ。窓ガラスにうつった、いつもより化粧の薄い冴えない女の姿を見る。ここにいるのは自分と向き合い、己を高める人間だけだ。
次も楽しく運動しに来よう。着地の位置に気をつけながら。
そう思いながら家へ帰った。
後日、同じジムに行っている母親の友人から、「ジムに新しい女が来る度話しかけて、後をつけまわしてくるオジサンがいて、あまりにもしつこいからスタッフにも言ったことがある」という話を聞いた。
夢であれよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜