リハビリ人生

知り合いに「アケスケなブログ」って言われました。あけみって名前のスケバン?って思ってたら赤裸々って意味でした。

サンタの筆跡をわたしは知らない

クリスマスが近くなることで行われるのが「サンタトーク」だと思う。「何歳までサンタさん信じてた?」とか「いつまでサンタさんきてた?」とか夢みたいな話を天気の話みたいな世間話の延長線でする。
別にその話題自体にそこまで興味はないけれど、相手の家の家族関係とか小さい頃の様子とかなんとなくイメージ出来るのでわたしは結構この話題を出す。

そして相手から私に話がうつったとき、絶対に驚かれる話がある。


忘れもしない。
小学校2年生の時だった。
クリスマスが近くなると、家の前の小さな木にイルミネーションを巻き付ける。遊びに行って暗くなってから家に帰ると、家の前がピカピカ光っていて、なんだか少し嬉しかった。
私にとって子どもの頃のクリスマスは、運が良ければケーキを買ってもらえてテレビがちょっと面白い日だった。そしてやっぱり何よりサンタさんからプレゼントをもらえるのは嬉しくてワクワクしていた。
24日。クリスマスイブ。
今日の夜寝たら枕元にほしいものが届くぞ〜と意気揚々と家に帰ると、母親が私を見つけて名前を呼んだ。

「あんた!サンタさんから手紙が届いとるよ!!!!!」

手紙?????そういうシステムなんてあった??

びっくりしつつもやっぱりテンションが上がり、姉と一緒に封筒をあけ、手紙の中身を読んだ。
サンタさんはどんな字をしてるんだろうとワクワクした。
わたしと姉の名前が冒頭に書いてあった。そしてその次の文章を読んで理解するのにわたしはすこし時間がかかった。


「きみたちはもう大きいから、サンタはもう来ません。プレゼントはお父さんとお母さんに買ってもらってね。」


そこにはサンタさんからのまさかの通達があった。

え、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!?
なんで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!!
心の中で小さくなっていくジングルベル。

親は「すごいね!サンタさんから手紙きとるじゃん!!!」となんかテンションが上がっている。(お前がやったんだろというツッコミはその当時には出てこない。)いや、確かにすごいと思うし絶対に冬休み明けに学校で友達に話すとは思う。話すとは思うけど、サンタさんがうちに配達エンド通告をしてきたという衝撃の方が上回った。

そしてしばらくして「君たちはもう大きいから」の一言が気にかかってきた。「お姉ちゃんは4年生だけど、わたしはまだ2年生なんだけど・・・」という不満がふつふつ湧いてくる。わたしより2年も多くサンタさんからプレゼントもらえててずるい。

手紙のサンタさんの字は、汚いわけでも達筆なわけでもなくワープロで打たれた字だった。「せめて筆跡を残してくれよ・・・」
私はもう会うことのない赤色のジジイの筆跡に想いをはせた。

次の日の25日。
ずっと欲しかったローラースケート(当時めっちゃ流行ってた)を買ってもらった。嬉しすぎて車の中で履いてたら、なぜかそのタイミングで軽い衝突事故にあって、車に乗ってた家族は全員無傷なのに、わたしだけブレーキの勢いでローラースケートで思い切り滑って、前の手すりに思い切り歯をぶつけて歯が折れた。は?そんなことある?
ローラースケートを履いていたことと、事故にあったことと、うちの家の車が後ろの席に金属の手すりがついてるタイプ(なんか分からんけど目の前にバーをおろす感じの手すりがついていた)だったということが、全部重ならないと起こらない事故だった。

私は血まみれになりながらローラスケートで車を降り、降りた瞬間また滑ってこけた。
相手の車の人物は私を見た瞬間完全に真っ青になっていた。そのまま睨みつけて、光GENJIばりのローリングを見せて「これがお前のしたことや!!」と泣き叫んでトラウマを植え付けてやろうかと思ったけど、立ち上がろうとしてもっかいこけたので、お姉ちゃんにローラースケートを外された。

サンタからの手紙はめぐりめぐって私に血まみれのクリスマスを用意したのだった。

そんなわけで毎回この話をすると驚かれるのだけど、その次の日事故って血まみれの光GENJIになったことまで話すと「作り話??」と疑われるので、いつも手紙が来た所までしか話してない。いたもん。血まみれの光GENJIいたもん。



平成最後の12月25日。
わたしもそこそこ歳を重ねた。
親とは毎日ビールを一緒に飲むようになった。ふと、あの手紙のことを尋ねたくなった。

「わたしが子供のとき、サンタさんから手紙届いたじゃん?あれ、なんだったの?」

すると母親は明らかにしどろもどろになりながら口を開ける。

「いや、サンタはサンタでしょ・・・なんだったも何も無いよ」

めちゃくちゃしどろもどろになっている。
え???ここにきて隠す???
私も24歳である。そこそこいい年齢になった娘に、いまだにサンタの全貌をあかそうとしない母親にこども扱いされてるのかと変な気分になった。

その後何分かしつこい攻防を繰り返した結果、話してくれた。

「ふつう、サンタっていつか歳とって自然といないって分かってくるでしょ?
だからあんた達にはまだサンタを信じてるうちに手紙がきたって思い出をあげて、サンタからのプレゼントを終わりにしときたくてさ。」

サンタからの手紙は、思わぬ母親の優しさがあった。なんだか少しズレてるような気もするけど。
確かに世の子供たちが大人になって自然とサンタからフェードアウトしていく中、わたしは手紙がきたという思い出とともにサンタさんから卒業が出来たのだった。

それを聞いて、大人になった娘からいざ手紙のことを聞かれて、とっさにはぐらかしてしまった親の心境もなんとなく分かる気がした。


親が与えた少しズレた優しさのおかげで、わたしには「サンタから手紙が来た」というクリスマス用の小さな持ちネタがある。

ローラースケートはすぐに飽きたし、手紙もどこにいったか分からないんだけど、あの無機質なサンタの字はなんとなくずっと覚えているのだろう。