リハビリ人生

知り合いに「アケスケなブログ」って言われました。あけみって名前のスケバン?って思ってたら赤裸々って意味でした。

白い壁の前に立つ思い出

「白い壁を探してます!!!誰かいいのがあったら教えてください!」


秋も深まる九月下旬。久しぶりに見た元彼のインスタのストーリーにそんなことが書いてあった。迷い猫探すみたいな切実なテンションでなぜ壁を探してるんだお前は。一体何をやっている。
気になってしばらく彼のインスタを見てたら数日後に

「白い壁を手に入れました!!やったー!!!」

と投稿していた。ゼルダの謎解き?どこから脱出しようしている?メチャクチャ嬉しそうに白い壁の前で自撮りをしている。

いや、正確に言うと嬉しそうなのは「手に入れた」と話す文字のフォントだけで、元彼自身は白い壁の前で、肩を落として片手でもう片方の腕をつかむ、けだるそうなポーズを決めている。怪我でもしたんか。手負いの読モか。手に入れたんならもっと嬉しそうにしろ。

謎の答えは自撮りの背景にしたら写真映えする白い壁を探していた、だった。
なんじゃそれ。自撮りの肥やしを街角で探すな。DIYでもしとけ。

別れた元彼は、私と別れてしばらくしてからどこかに頭を打ち付けたのか、悪い夢から目が覚めたのか、急にファッションを追求するようになっていた。わたしと付き合っていた頃に身につけていたブランドロゴが全面にでかでかと主張されている全身コーデは全て売り、色々なタイプの服を買っては自撮りを撮りwearにアップしていた。

頭をうちつけたであろう彼は、「俺は顔を隠せばそこそこイケメンに見えるらしい」と気づいたのか、顔にモザイクをかけてwearに投稿し続けたところ、高身長がいい方向に転んだのかwearでどんどん人気者になっていき、フォロワー数は3万を超えているようだった。

その様子を見ている私はというと、なんだか変な気分だった。
私はモザイクの奥の彼の顔が吉本新喜劇小籔千豊の上位互換であることを知っていた。(さまざまな方面に失礼を働いている私の顔は、母親に「初期の浅野いにおが書く鼻がへちゃげてるブス」と評されるナリをしている。)

今ではそこそこ人気者らしい彼だが、付き合っていた頃はまあまあ私に依存をしていた。
コミュ障で人見知りのくせにそこそこ図々しいというナイスポテンシャルを発揮していた彼は、他の人より自分を尊重してほしいという欲が強かった。

私の地元の友達が私の家に泊まっているときには、気になったのかなんの用もないのに見に来て、バイクのフルフェイスのヘルメットを着けたコンビニ強盗みたいな容姿のまま私のみに一方的に話しかけてきて友達を怖がらせたり。

サークルが忙しかったので、ずっとそっちを優先していたら機嫌を損ねることも多々あった。
「俺とサークルどっちが大事なの!?」というよくある奴も聞けて「あ!よくある奴だ!」とその時はテンション上がったりした。よくある奴を間近できけるのは嬉しい。
サークルには男友達も多かったから気に入らなかったのかもしれない。


私が彼氏に束縛されているという話は仲のいいサークル連中の間でそれはもうネタにされた。誰しもみな何より「恋人とうまくいってない」系の話が好きだ。
飲み会で話は誇張されてひろがり、「梅くらげの彼氏は毎日毎日、何かしらの理由で梅くらげの接するもの全てに対して嫉妬をしているという」という伝わり方になり、さらにネタにされた。

ネタにされた結果、飲み会が頃合いになるとロシアの民謡の「1週間」の替え歌に合わせて私が酒を飲むというクソルールが産まれたりもした。

youtu.be


「月曜日はラーメンのバイト〜〜♪♪〇〇(元彼の名前)は嫉妬をしてる〜〜〜♪♪ウラウラウラウラウラウララ〜〜〜♪♪うらうらうらうーラーラー♪♪」


これを月曜日から日曜日まで何かしらの理由をつけて計7杯分その場にあった酒を飲まされるという、大富豪の馬鹿が奴隷を痛めつけるために考えた遊びをさせられていた。
曜日の中にはたまに「今日は一緒にいるから満足してる〜〜♪♪」と織り交ぜるターンもあり、そこのリアルな生々しさは必要ないだろと思っていた。

飲み会で酔ってトイレで戻すというのはありがちな流れだが、なぜかそんな無茶をしていた時はそういうことはなかった。そんなに酒は強い方でもないので今でも不思議に思う。ワイン7杯を飲んで「これはやばいかもしれない」と思った場面もあったが、なぜか後ろにいた奴が水の飲みすぎで、透明な液体をシンガポールの口から噴水を出すマーライオンみたいに出していて「ぜお前が吐く?」と冷静になり一命を取り留めたこともあった。


そんな写真映えもしないけれど、楽しかった時代をふと思い出す。
白い壁を探している元彼は、新しい彼女も出来たのか彼女の顔にもモザイクがかけられた投稿をたまにしている。私とは似ても似つかないオシャレな雰囲気の子で、ファッションセンスがある元彼とすごくお似合いだった。
1回Twitterで写真をあげてるのを私の友達が見て顔が「お前に似てる」とも言われた。
私とは価値観が合わなかったが、恋人を大切にする人だと思うので、幸せになってくれと思う。


わたしの写真フォルダは、飲んだ時に酔っ払って撮った食べ残しと空いたグラスの写真ばかりだ。もう大学生の時みたいな無茶な飲み方はしないけど、やっぱりお酒の場が好きだし、食べるのをやめて良い頃合いになった時のつくえの上が私は妙に好きなのだ。
数日たって食べかけの魚や日本酒の空瓶を見ると、その時の雰囲気が少し思い出されてうれしくなる。

白い壁を探す彼とは違う生き方をしているが、お互いそこそこに充実した日々を歩めてるんじゃないかと思ったりする。


ところで前に書いた哲学と酒をこよなく愛していた元彼は、鍵垢のTwitterで「事故にあって全身骨折しました。要介護状態です」とプロフィールに書いてあったのを見たっきり消息不明だ。


出会った思い出の人たちが、日々の中で少しでも健やかな人生を歩むと嬉しい。