リハビリ人生

変な人間と日常の記録

刻め!ジジイサマーフェスティバル


人にはモードがある。社交的スイッチON状態とOFF状態があって、ON状態の調子がいい時は自分から初対面の相手に会話のテーマを出して、会話を盛り上げることもできる。

しかしほとんどの場合、私はOFF状態である。脳が必要以上の会話をすることを拒否している。
そんなOFF状態において、脳を通さない会話をするために、私は多様な相槌を習得することに成功した。

 

驚いてるタイプの「へぇえ!?」
噛み締めるタイプの「へぇ〜〜〜・・・」
笑いを含むタイプの「へへ(笑)へぇ〜」
切なそうな顔して斜めに頷きながら聞くタイプの「ふんふん・・・」
たまに言ってることを重ねて言うタイプの「へぇ〜〇〇・・・」

以上!梅くらげの相槌攻略辞典!

 

 

相手が喋りたがるタイプならばほとんどの場合これらのタイプの応用で会話は成立する!するのであーる!
ちなみに脳を介さずに相槌を送っているため相手が何を話しているのかは全く理解していない。理解してないけれど意外となんとかなる。
何故ならば向こうは自分の話がしたいだけであってこっちの話は求めていないのだ。

これが私がコンパニオンで働いていた時に習得した脳を介さない会話術である。
私はこのやり方で数々のおっさんと会話してきた。今後職場の飲み会や、道行く先でどんなおっさんが現れようとも私はこの相槌で対処することが出来る!!

そう思っていた。あの時までは・・・

 


その日私はイベントに参加し東京から地元へ飛行機で帰ろうとしていた。全ての用事が終わり、疲れ切っていた私はいつも通り飛行機内で寝ようかと思っていたが、疲れているのに目が冴えていた。楽しみにしていたイベントが終わり、興奮が冷めやらぬ状態だったのかもしれない。

席に座って離陸までの間、外の景色でも見ようと窓を開けた瞬間から、そのタイムは始まった。

「まだまだ夏じゃけえこの時間も明るいねえ」

声の主は隣の席のオジサンだった。
私はとっさに「そうですね」と愛想笑いを送る。
まさかの展開だった。飛行機の各席はパーソナルスペース。みな思い思いの時間を過ごす者ばかり。こんな所でコミュニケーションを取ろうとしてくる人に出くわすとは思いもよらなかったのだ。

なんならオジサンはまだ喋りたそうな雰囲気を醸し出している。
一人の時間を満喫したかったわたしは、窓の方向を見つめ、オジサンから逃走するルートを探るが、強制コミュニケーションジジイまだはなしかけてくる。どうやら逃げられないようだった。

ここだ。と思った。
私がコンパニオン時代培った脳を介さない相槌を披露する場面はここである。
こういうジジイに出くわした時最大限この能力は発揮され、わたしは会話をしてるように見せかけて、休息のひと時を得ることが出来るのだ。

さぁ来い!どんなのが来ても無敵の布陣で立ち向かってみせるぞ!
私の口は「へぇー」のモーションに移ろうとしていた。

 


「飛行機で写真撮る人っておるよね?俺の知り合い、飛行機から空の写真撮ってUFOの写真撮れちゃって、それをSNSにあげた結果すぐ削除されて、知り合いいなくなっちゃったのよ」

「へぇ、えぇ〜・・・!?」

なにそれ。急角度でヤバいジジイになるな。そんな急角度でヤバいジジイになられたら、脳が情報を処理しようと頑張り始めてしまう。休暇中の私の脳を頑張らせないでほしい。

 

「たぶん国家に追われてるんだと思うわ。ははっ!お姉さんもちょっと撮ってあげてみなよ!」

どんな気持ちで笑ってんだよコイツ。笑うな。

 

強制コミュニケーションジジイかと思いきや、ただのヤバいジジイであったことを悟った私は相手にしてたら大変なことになると思い、無敵の布陣を撤退させ、ジジイから逃走するルートに選択肢を戻した。
わたしはイベントのことを考えたいのである。iPhoneを手に取り、その日撮った写真に目を向け隣席のナチュラルヤバジジイからイベントに思考を飛ばす。

 


「あ、それってiPhone?いいね。若い人はそれがあればいくらでも暇が潰せるね。」

おいやめろ。私の脳内に無理やり入ってくるな。早くUFOに攫われてくれ。

 


「でも知ってる?iPhoneって起動した瞬間の内カメラで写真撮られて国に全部保管されてるんよ。だから今のお姉さんの顔もさ、撮られてる。」

引き続きヤバい話を提供してくるな。
なんの為にそんなことをするんだ。仮にそうだったとしてなんでお前がさっきからそれを知っている。お前は国家のなんだ。

 


「だからさ、お姉さんがお風呂に入ってiPhoneをつかってるのも・・・さ。むふふ」

殺す。絶対に殺す。もう絶対に殺すと決めた。殺ーす。むふふ。

 

 

その後ジジイによって私の無理やり脳内に運ばれてきた情報は以下の通りだ。

 

・山の頂上でセックスをするとコンドームが気圧でダメになってチンコが破裂するから気をつけた方がいい。

・俺は前の嫁に家具と一緒に断捨離されたから断捨離は程々にした方がいい。

・行きの新幹線で一緒になったオバサンが様々なヤリマンエピソードを披露してきて挙句の果てには新幹線を一緒に降りようと誘ってきた。

 


自分が何を書いてるのかわからない。とりあえず冒頭で言っていた相槌がなんの役にも立たなかったことは確かだった。

相槌をしたのかさえ覚えていないが延々と私はジジイの話を聞いてしまっていた。
聞かせる能力がジジイにはあったのだった。


1時間ちょっと時間は経過し、飛行機はもうすぐ着陸になろうとしている。
私は飛行機の離陸が遅れたトラブルで、空港から駅に向かうバスを1本遅らせなければ行けないことに気がついていた。そして話を聞くところジジイも同じバスに乗るらしい。
めくるめくジジイパレードはまだ終焉の合図がこない。

 

飛行機のナレーションがもうすぐ着陸であることを伝え、地面が近づき始めた頃、ジジイは私の方へ顔を近づけた。

 


「着陸のタイミング当ててあげる」

 

なぜ?
数々の疑問符がこの1時間のうちにあがってはいたが、それでも疑問を持たざるを得なかった。
いや、なぜ?

 

「10・・・9・・・」

 

ジジイの耳元カウントダウンが始まった。
なぜ私はジジイと共に飛行機の着陸をまっているんだ。なぜ?

 

「5・・・4・・・」

 

これ本当に飛行機着陸する?
爆発したりしない?そういう趣ない?
天国へのカウントダウンってジジイ発だったりしない?

 

「2・・・1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゼロ・・・・・・・・・・・・・・・」

 

予測が外れたからってゼロをここぞとばかりにためるな。


ナレーション「(ポーン♪)飛行機が着陸致しました。」

 

そんでちょっと惜しいんかい。
ジジイカウントダウンバトルでニアピン賞をとるな。


私は疲れ切っていた。
私が学んできた相槌は本物のヤバいジジイには通用することはないし、飛行機を降りてもジジイトロピカルパレードはきっと続く。
20数年、そこそこを生きてきたからって、偉そうに自分の得たものを誇ろうとするのはやめようと思った。壁は簡単に現れる。
これからは謙虚に、目の前のものに等身大の自分でぶつかっていこう。

次のバスの時間まであと1時間ある。さあ、トロピカルパレードの続きだ。


シートベルトを外す許可が出され、意気込んで、私は隣を見た。


するとジジイはまっすぐ出口を見据え、私の方を見ていなかった。


え?
なぜ?
急に?


飛行機が着いた途端、コミュニケーションジジイは普通の寡黙なおじさんになっていた。
あまりに喋らないので、こっちが気まずくなって、私はいつの間にか「ありがとうございました」と礼を言っていた。
なんの礼だ。むしろこっちが感謝してほしい。
そして私の礼にも「ども・・・」みたいな軽い会釈で返してくるジジイ。

挙句の果てには出口が開通した瞬間、すごいスピードでジジイは去っていった。

まかれた。

まく側である私がジジイにまかれていた。

 

 


なぜ?

 

 

 

これが私の体験したことの全てである。
ちなみに私が行ったイベントのタイトルは「みくのしんサマーフェスティバル」だったのだが、行ってみたらそのタイトルも嘘だった。
なんなんだそれ。
真夏の夜の夢の歌詞って覚えてないけど、こんな歌だったりします?