リハビリ人生

変な人間と日常の記録

生徒会長は動かない

人の言葉には裏側がある。

自分を強く見せかけるために棘のついた言葉の鎧を背負い、体当りして人を傷つけ自分を守る人もいる。「言霊」なんてものはあるが、本当に心がこもって発せられた言葉なんて、実は全然ないのかもしれない。

また、裏側があることに発した自分ですら気づいてない場合もあるのではないだろうか。


今回は話が高校生に遡る。
いつか生徒会だった時のエピソードをブログに書いた。

 

sobameshi5.hatenablog.com

 

今日話すのはこの記事で書いたメガネの中の一人、生徒会長になったメガネの話だ。


会長は真面目で良い奴だが、少し頑固でいつも何かをやらかしていた。
高校生男子としては珍しくDREAMS COME TRUEをこよなく愛し、当時のメアドにもDREAMS COME TRUEをガッツリ入れていた。おっちょこちょいなのか、ドリカムが22周年だった時「ドリカムが22周年になったのでメアドを変えます。メアドDREAMSCOME TRUE21....」というメールを送ってすぐ、「すいません22周年なのに21になってました。メアドDREAMS COME TRUE22...」という訂正メールを送ってきた。その時ほど心底どうでもいいと思ったことは無かった。ドリカムの名前を入れてるからなのか、女だと勘違いされてる迷惑メールがハチャメチャにきていた。キムタクから求婚されていた。


「梅くらげ(私の苗字仮)さん、俺は幸せになるための術を見つけた。」

彼女いない歴年齢の会長は、数少ない異性の友達である私(私も同じく異性の友達は少ない)にこう話しかけた。
訝しげに何よと聞くと彼は答えた。

「無欲。これが全てだ」

彼の理論では欲を持つと人は滅びてしまうらしい。人を好きになってしまうから傷つくし、誰かと付き合いたいと思わなかったら誰かと付き合いたいと思わなくて済む、と言っていた。

今まさに童貞の生きた語録が記憶に植え付けられているのだなと私は思いながら、彼の話に付き合っていた。

多くを求めない、小さなことに喜びを覚える。
そんな彼が今一番幸せを感じる瞬間は、「金魚のエサやり」らしかった。ジジイの生活はやめろ。

 

そんな平和な生徒会にある日、事件が起きた。

 

「パソコンがねぇ!!!!!!!!!!」

 

会長の大声が部屋に響き渡った。
生徒会は生徒に向けた会議の議事録も、先生に提出する企画書類も全てパソコンで製作しており、パソコンがないと活動がその日の困難になることもある。日は生徒会が最も忙しい文化祭近く。
会長は困ったことがあるとすぐパニックに陥るので、落ち着いている方の会計のメガネがなだめにかかった。

「どいつだ〜〜!!!!!やすこ〜!かなえ〜!こうき〜!あまね君か〜!?!?」

誰だ。
と思ったら全員生徒会の顧問だった。
いきなり生徒会顧問全員の名前を下の名前で呼び出すボケをしてきたので、「なんだ焦ってるけどコイツわりと余裕あるな」と思った。会長のボケは特に面白くはない。


ただ、事件は重なった。
生徒会棟の階段から、聞きなれない華やかな声がしてきた。

「重た〜〜〜!!!」
「マジこれだるいわ!」

生徒会室を通り抜け奥の倉庫へ向かう彼女たちのスカートは赤色でヒラヒラと短かった。
正体はチアガール部だった。


「おいおいおいおいおい!どうなってるどうなってる!」


突然教室の真ん中でスクールカースト圧倒的最上級の生活を送っている顔のいい同級生女子たちが現れたことに、驚きと動揺を隠せない生徒会男子たち。

緊急事態に見かねた会長は生徒会室から職員室に繋がっている内線電話で顧問のあまね君に電話していた。

「先生!?!?大量のチアガール部がこっちに向かってるんですが一体どういうことですか!?!?!」

ゾンビが来てるからなんとかしてくれみたいな言い草で会長はあまね君に詰め寄る。
あとパソコンの件はどこにいったんだ。
まずは活動に支障をきたす方を聞いてくれ。


電話を切った会長はあまね君から聞いた話を私たちに教えてくれた。チアガール部の部室が改装工事のため1ヶ月ほど生徒会棟の奥を使うことになり、今は移動のため活動するための道具を運んでる最中らしい。

確かに倉庫の中は広い。チア部が活動することのできる程度の広さはある。しかし、そのためには倉庫内の使わなくなった生徒会の備品という名のゴミたちを移動する必要があった。


チアガール部たちは自分たちの荷物を運び終え、生徒会顧問と兼任しているチア部の顧問が物品の移動の指導をしていた。
ヒラヒラとしたスカートで重いものを持って階段を降りているチア部たち。

生徒会メガネたちは腰をあげ、チア部を手伝いに行こうとした。その時、


「待て」

生徒会長からのストップがかかった。


「手伝うな。手伝ったら負けだ。」


会長の目は闘志に燃えていた。この状況で彼はなにと戦っているのか私には検討もつかず、「でも男手を考えたら手伝いに行った方がいんじゃないの?」と提案した。


「いや、ここで手伝ったら男がすたる。」


逆では?
手伝う方が絶対にカッコいいよ!絶対にカッコいいよ会長!
というかパソコンないし今やることそんな進められないから行ってもいいだろ絶対。

それでも動かなかった。
会長は動かなかった。

会長の「手伝うな」という言葉。
言葉の裏には何かがある。


うちの学校の文化祭はほとんど全て生徒会が運営していた。準備は半年前から始め、休日も準備に費やし、文化祭前日は全員学校に泊まってやることをしていた。
そんな中、一番文化祭での注目が集まるのはチアガールの舞台であった。チアガールが足をひとあげするだけで男たちのお祭り騒ぎである。
生徒会は足を交互に前に出しバタバタと動いていても特に何にも言われない。
むしろ「あれやれこれやれ」と各委員に指示するので嫌われるばかり。
汗水垂らした文化祭は、生徒の笑顔で幕を閉じる。


「皆に文化祭を楽しんでほしい」

その一心で作り上げる私たちと、華やかに踊るチアガール。

「手伝わない」という言葉の裏側。
「俺たちの青春は俺たちが守る」
誰よりも頑固な会長の、意地があったのかもしれない。


童貞メガネたちは、皆会長の言うことを聞いていた。
しかし、そんな中一人のメガネが立ち上がり、部屋から出ようとした。

副会長である。

会長は副会長の手を思わず掴み、言った。

「お前・・・もしかして手伝いに行こうって言うのか!」

副会長は振り向かない。
無言が彼の肯定なのだろうか。

誰よりも近くで苦楽を共にしてきた副会長。
自分を推薦し、全員の前で応援演説さえしてくれた副会長。雨の日も風の日も、2人は生徒会のために頑張ってきた。

そんな2人が敵同士になる日がくるなど、誰が考えただろうか、いや誰も思いはしなかっただろう!


会長は手を離した。かつて自分を応援した彼は、今はチアガールを応援しようとしている。ここからは違う生き方か。


すると、無言を貫いていた副会長はまっすぐと会長を見据えて言った。


「困ってる女の子が目の前にいたら・・・助けるのが普通だろ」


会長は膝から崩れ落ち、絞り出すような声で言った。


「その通りだ・・・・・・っ!!!!」

 

 

 

その後普通に全員で倉庫の掃除を手伝った。
無欲を掲げた生徒会長は、ほぼ初会話のチア部の前で、照れくさそうにコミュニケーションを取っていた。

実は誰も敵なんてそこにはいなかった。
言葉の裏なんて気にしない、楽しい時間がそこにあった。
困ってるところに手を差し伸べられて、距離が近くなったチアガールたち。
彼女たちは会長に意気揚々と話しかける。

 

「会長この前体育の時、体操ズボン後ろ前逆に履いてたよね!?!?ウケる」


会長は黙って下を向き、黙ったまま古くなった看板に手をかけた。