リハビリ人生

変な人間と日常の記録

じいちゃんへ

じいちゃんは、
酒とタバコを愛している。


酒は金麦。タバコはメビウス


お酒は午前中から飲み始めるから、車を出してもらう頼み事は朝イチにしにいかなくてはならない。自分の家から徒歩1分の距離にある家に、「駅まで車で送ってよ」と言いに行くと手遅れになることが多かった。

じいちゃんは会う度酔っ払っている。夏になると上半身裸に下はステテコ、風呂上がりみたいな格好で、下校中の知らない小学生に「おかえり〜」と声をかけている。不審者として通報される一歩手前だ。陽気なジジイと不審者の境界線は曖昧でそれは見方しだいなのである。

小学生だけじゃなく、じいちゃんは知らない人にすぐ声をかける。喫煙所で会った人とは絶対仲良くなるし、ビアガーデンなんかに行くと近くにいる人に踊りながら声をかけたりする。「もう!じいちゃん!ちゃんと皆の近くおってよ!」と迎えにいくと「ほっほっほ」と頬をほんのり赤く染めて笑うのだった。



タバコは1日一箱は吸う。
うちの一族はじいちゃん以外吸う人がいないので、「もっと減らしーや」とみんな言っていた。タバコの値段がどれだけ上がっていってもじいちゃんのタバコの本数が減ることは無かった。

小さい頃からそばでじいちゃんの指先のソレから、煙がモクモク出ているのを見て、「おいしいのかなあ」と不思議に思っていた。
じいちゃんは私を見つけると「ほいっほいっ」と言いながら謎の踊りを踊って近づいてくるので、聞くことは無かった。


酒もタバコも吸うけど、運動はしない。
そんな地球に優しくない不健康な生き方をしているじいちゃんだが、医者に驚かれるくらい今まで病気を一つもしたことはなかった。



今年の六月にじいちゃんが足の骨を折った。

散髪屋に行く途中、普段は乗らないサドルの高い自転車に乗って転んでしまったのである。さいわい、2ヶ月病院に入院してリハビリをすれば治る程度と医者には言われた。
私は週5で、ばあちゃんを車に乗せて一緒に病院に見舞いに行った。じいちゃんは将棋が大の得意なので、将棋をさしたこともあった。3時のおやつに間に合った際にはばあちゃんと3人でおやつを食べたりもした。「おまえが来たらじいちゃん元気になるわぁ」ってじいちゃんは笑っていた。

足の骨にボルトを入れる手術の時。
その日も私とばあちゃんが2人でついていた。
手術の前はいつもは陽気なじいちゃんが、さすがに緊張しているようだった。
私がトイレに出て帰って来た時に、じいちゃんは別のベッドに移されていた。じいちゃんのそばにいって顔を見て私はふと気がついて口に出した。

「じいちゃん鼻毛出とるで」

わたしのその言葉の直後に、看護師さんが合図を出し、じいちゃんは手術に向かった。
やらかしたの一言である。
手術の前にかける言葉として、おそらくワースト10に入る不出来合いな言葉である。最悪の孫。

手術は無事終わり、次の日また見舞いに行ったら、散髪をしてもらっていた。こけて骨折したせいで、出来なかった散髪である。

「おっ!ええじゃん!髪の毛少なくても散髪するとカッコええじゃん!」

またもや余計な一言を私は言う。
隣にいた家族も「一言多いわ」とツッコミを入れる。じいちゃんはハゲ頭を光らせながらまた「ほっほっほ」と笑っているのだった。







じいちゃんは、

酒とタバコと

家族を愛していた。













じいちゃんは、骨折して入院し、そこから2ヶ月経って、退院する直前に、調子が悪くなった。


胃ガンだった。


末期だった。



そして、一昨日、じいちゃんは亡くなった。





胃ガンが見つかってからは進行がとても早かった。毎日毎日病院に行って、時には病院に泊まりがけでいた。

じいちゃんはしんどそうだった。
つらそうだった。
陽気に笑って踊るじいちゃんはいなかった。

でも、いつもちゃんと私の名前を呼んでくれた。







葬儀が終わって、火葬場に移った。
火葬は1時間ほどかかるようだった。

私のカバンの中には、じいちゃんがいつも吸っていたメビウスが入っていた。

喫煙所に行き、タバコを口元に持っていき火をつけた。
モクモク。モクモク。
じいちゃんの指先にあったそれは、わたしの指先に今はある。

思ってた以上に吸いやすくて、「なるほど、これは一箱吸えなくもないな」と少し思った。


モクモクモクモク。


タバコの煙とじいちゃんの煙が空でまじわる。












じいちゃん





もう、どこも痛くないね。


良かったね。





たくさんタバコ吸ってお酒飲んでね。





お酒とじいちゃんが大好きなわたしより。