リハビリ人生

知り合いに「アケスケなブログ」って言われました。あけみって名前のスケバン?って思ってたら赤裸々って意味でした。

オジサン暗闇脱出ゲームの攻略法

スマホの普及でインターネットがより身近になり、今では誰でも自己表現がしやすい時代になっている。自分の特徴の中で何か一つでも秀でたものがあれば、誰だってスターになれる。そんな時代になってきた。
そこで最近流行っているのが「配信アプリ」だ。

少し前に私も生配信アプリなるものにハマっていた。だれでも「ライバー」として生配信ができるアプリだった。ちなみに配信をする方ではない。私は声質があまり良くないし、動画などで自分が喋ってるのを見ると「早口で顔が長いオタクが口をひん曲げながらしゃべっている!!ボケが分かってもらえなかったから同じボケを3回連続で言って友達に『聞こえてるし別に面白くないよ』ってたしなめなられている!」としか思わないので、私はライバーとしてチヤホヤされる希望をはなから放棄していた。

となるとそう、わたしはチヤホヤされる側でなく、ライバーの女の子を全力でチヤホヤするのにハマっていた。


(ここからしばらくただ私が「配信アプリにハマっていた」ということを説明するためだけの気持ち悪い文章が続くので「本題にうつる」まで読み飛ばしてもらっても大丈夫です)

 

「しらぽんちゃーーーん!また来てくれたんだね〜!!」
画面の向こう側の女の子は私の目を見ながら笑う。間違いなく私の目を見て喋っている。しらぽんとは白子ぽん酢という私がそのアプリで使っていたハンドルネームである。(余談だけどお酒に合う食べ物が好きなので私がネットで使ってる名前は全部美味しそうです)
最初に始めたのは応援してるラジオのパーソナリティがそのアプリを始めたからだったが、元々可愛い女の子が好きなので、女の子の配信を見ていくうちにドハマりしていた。

「わぁ!しらぽんちゃん!すごーい!!ありがとうー!!!(拍手の音声)」

画面の向こう側の女の子が喜んでいる。画面ではそのアプリの公式キャラクターが光るサイリウムをもって踊っている。
わたしは金の力でソイツを召喚して踊らせていた。
配信アプリはいわゆる投げ銭のような仕組みでライバーを応援することが出来る。投げ銭されたポイントが多いほど、応援している女の子はランキング上位にあがることができる。
人生の価値は何本のサイリウムを好きな女のために振ったかどうかで決まる。ときめきのプリズムは金の力で手に入れるのだ。
おいお前!もっと真面目に振れサイリウム!なんだこの公式キャラクター!!異形のコアラみたいな風貌しやがって!!驚愕の可愛くなさだな!!!!!!

 

 

本題にうつる。(ここまで読み飛ばした皆!正解だよ!)

 

その女の子の配信で、私はあるオジサンの存在が気になっていた。

「今日も〇〇ちゃんが一番かわいいね😊😊💖💖」

オジサンのコメントはいつも人一番光っている。オジサンはこれでもかというくらいに絵文字を使う習性がある。バブル崩壊リーマンショック、様々な時勢の荒波を超えてきた男たちは、絵文字の気持ち悪くない使い方を覚えずに今日まで生きてきた。

そのオジサンはその子を死ぬほど応援していた。アイコンはその子の顔写真にし、日々サイリウムを振り続けていた。その子の配信で一番金を落としているのはそのオジサンだった。
金を落としているからこそいつも女の子はそのオジサンにちやほやするし、相手もする。オジサンとしては満足のはずである。

「よし、じゃあそろそろ寝るね‼️おやすみ‼️🤩🤩🤩」

オジサンがそうコメントを残すと、女の子は「あ、寝るんだね!〇〇さんおやすみなさい、また遊びに来てね♪」と画面に向かって言ってくれる。
しかし配信を見ていることを示す、頭上のアイコンのマークにオジサンは居続けている。
そしてしばらく経ってからいきなり異形のコアラにサイリウムを振らせて「あれ!〇〇さん寝てなかったの〜!ありがとう〜笑」と女の子に言わせる。そしてまたおやすみを言わせる。
このやり取りを毎日数回繰り返しやっている。


だっっっる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


見ている側からしてもメチャクチャだるい。
オッサンが「おやすみー‼️」と言い残してから無言で配信画面を見続けているのを想像すると怖すぎる。なんなら結局毎回その子が配信を終えるまで居続けてる。確実に女の子の「〇〇さんおやすみなさい」が何回も聞きたくてやっているのだ。れっきとした罪である。強制おやすみ罪で書類送検である。

 


「今日、俺も配信しちゃおっかなー‼️🤓」


ある日、そのおやすみ言わせオジサンはコメント欄にそんな言葉を残した。女の子は「そうなのー?いいねー!」と言いながら「見に行きますね!」とは一言も言っていなかった。そりゃそう。
そんななか、私はオジサンとなんやかんや配信のコメント欄上でお互い挨拶を交わす仲だった。常連であると共にその子の配信は基本視聴者が男性だったこともあって、私のような女がいるのは珍しかったというのもあるかもしれない。オジサンからフォローを受け、わたしもオジサンのアカウントをフォローしていた。

その子の配信が終わり、しばらくしているとオジサンの名前と共に「配信を始めました」という通知がスマホの上部に上がってきた。

いつもあの子にダル絡みをしているオジサンはどんな顔でどんな声をしてるんだろう。
私は軽い好奇心を持って、オジサンの配信部屋に行くことにした。

 


アイコンをタップするとそこにはただ暗闇が広がっていた。


「ひょ」


思わず怖くて変な声が出た。

帰り道配信など、暗い画面での配信も無いことは無いが、一切の光がない配信部屋だった。
そして閲覧者を示す数字は1。
その真っ暗な部屋には私とオジサンしかいないのだった。

「こんにちは‼️」

しばらくするとコメント欄にオジサンからコメントがきた。

「すいません今😭😭💦💦」
「マイクの調子が悪くて声が出せないんだけど💦💦」

うそつけ。
なんかわからんけどうそだと確信した。はなから自分の声を出す気はなかったんだと思う。とりあえず「全然大丈夫ですよ〜」と返した。
それにしても話すことがないし、暗いの二重苦である。でもすぐに退室するのはなんだか申し訳ない気がして、出るに出られない。

もし私が来なかったらこの真っ暗な部屋で一人で何分間配信をするつもりだったんだろうか。一人暗い部屋で待っているおじさんのことを考えると怖くなってきた。
そんで喋ることもない。何喋ればいいんだよ。


その時、一瞬だけ部屋のあかりが点いた。


見えたのは、和室と思われる部屋の壁、本棚、そして

 

オジサンの生足だった。

 

いやなんで?
なんでオッサンの生太ももを見せられた?
そしてまた暗闇に閉じ込められた?
なんで?

「ごめんごめん〜😝😝一瞬部屋の明かりついちゃった!!」
と謝ってくるオジサン。
いや、部屋の電気はつけててくれ。
ずっとつけてるのが正解。
一瞬つけて生の太ももが映るのが不正解。
それがオジサン部屋クイズの答え合わせ。


そこで考えて、オジサンがいつもおやすみを言ってもらうために試行錯誤をしているという事実から、このオジサンはこの状況も楽しんでるのではないか?という気がしてきた。
配信をしている推しの女の子ではないが、一応若いメスだと認識している女が自分の部屋にやってきて、2人でお話をしているというこの状況。
なんなら太ももも映りこんだという訳ではなくわざと見せてきたのかもしれない。


というかこの人下着履いてるのか。

あ、今考えたのは無しで。考えたらいけない領域に今踏み込んだ。


色々なことを考えて、私はこの部屋から脱出するしかないという結論に達した。オジサンと二人きりの暗闇密室配信。この脱出ゲームあなたならどうしますか?
暗闇を明るく照らす光、あなたはなにを使いますか?

 

未来を切り開くのプリズムは、自分の力で手に入れるのだ。

 

私は自分の課金したポイントを確認した。

そして光るサイリウムでその部屋を照らしたのだった。
この部屋を脱出する鍵はサイリウムだったのだ・・・。


オジサンはポイントがもらえて嬉しそうにしており、その隙に「また来ますね〜✌🏻️」とコメントして配信部屋から出て行った。それ以来もう行くことはなかった。

思えば別にさっさとボタンを押してすぐに出ていけばよかったのだけれど、上がり込んで何もせずに立ち去ることがなんとなく私には出来なかった。毎日同じ配信部屋で顔を合わせてるという積み重ねが、そうさせたのかもしれない。

 

そのあと、しばらくしてあまり配信は見なくなり、わたしのスマホからサイリウムをふっていたキャラクターのアイコンはなくなった。

 

承認欲求の行き先は虹色のサイリウムになって、女の子を輝かせる。


オジサンが私があげたポイントでレベルを上げ、私の代わりにあの女の子のためにサイリウムを振っていることを想像して、なんとも言えない気持ちになりながら、部屋を暗くして今日もまぶたを閉じるのだった。

ブログ老害への道

ブログを書き始めてもうすぐ2年くらいになります。
なかなかテキストのみで書いてるブログが少なくなってきている中で、イラストや写真を使うことなく文章だけのブログを続けたいなと思い、ちまちま細々と更新しておりました。

そんな「リハビリ人生」がこの度・・・

 

hyenasclubs.org


ハイエナズクラブ自由研究2018で紹介していただけました!!!!!
今回ハイエナズクラブ自由研究では、個人ブログやサイトそのものを評価していただけるということで、「今こそハイエナズクラブというインターネットの公園でトレンチコートを脱ぎ、私のささくれたった人生をお見舞するときだ!!」と露出狂マインドを胸に、ブログを応募させてもらいました。
統一性やテーマを持って何かをやり続けているサイトではないので、賞を取るのは難しいかな・・・と思っていましたが、ハイエナズクラブの大好きな方々に審査していただけるという時点で、わたしの露出狂マインドはビンビンに満足することが出来ていました。そう思っていたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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zukkiniさんにブログをこんな嬉しいお言葉を添えて紹介していただきました。
わたしはzukkiniさんのテキストが大好きで、ブログを夜な夜な読み漁ってはzukkiniさんの生に思いを馳せる日々を送っており、また日本に帰ってきて街中の酒をひっかけ回すライフを歩んで欲しいと待ち望んでいる、3文字で分かりやすく表現するとファンなのですが、そんなzukkiniさんから「ブログ老害になれ」というお言葉をいただけたのが本当に嬉しかったのです。

 

わたしはインターネット古参オジサンに憧れています。
ここで言うインターネット古参オジサンとは、インターネットの黎明期からインターネットで遊び、インターネットの笑いで日々を謳歌してきた方々のことです。俗に言うテキストサイトの方々もそれに当てはまるかもしれません。
インターネット古参オジサンたちは「あの頃のインターネットは・・・」と言ってはるか昔のホームページの話をします。自分たちにしか分からない掲示板の話でキャッキャウフフします。
私にはそれが羨ましくてしょうがない。どう頑張ってもわたしはインターネット古参オジサンには慣れないのです。わたしはインターネット古参オジサンのオフ会には参加出来ないのです。
テキストサイトというメチャクチャ最高の文化があったと知った時には、もう日記ブログの文化はほとんどインターネットからはなくなっていました。


郷に入っては郷に従え。ギャルはTikTokで踊れ。
そのときどきの時代に合った生き方で楽しみを見つけていくというのは、生きる上で大切なことだと思います。

それでも私は日記を書きたい・・・。
笑いは取れなくてもいいから、文章だけで日々を綴りたい。たまに笑いはとりたい・・・。

と思って今でも日記をちまちまと書いております。
ブログ老害・・・
この称号を私はまだまだ手にすることが出来ない。
これを手にすることが出来る日まで、文章を書くぞ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!

 

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ぎゃっ!!!!!!メンヘラの長々LINE攻撃だっ!!!!!!


失礼しました。いきなりメンヘラの長々LINE攻撃を見せてしまいました。
わたしがzukkiniさんからコメントをいただいて喜びを噛み締めている中、わたしのスマホの上の部分ではメンヘラの文字が踊っていたのです。
最近ずっと幼馴染のメンヘラが彼氏とつまらない喧嘩をしている件について相談を乗っていたので、そのことだろうなとすぐに察しました。
「なんだよ今忙しいんだよ!!!!!!!!!!!!」と耐えきれなくなりLINEを開いたらあまりの長さに小さく「ひっ」といってしまいました。

このスクショ分の長さ×4の文章がそこにはありました。
壁でした。
わたしが喜んでいるさなか、戦争中の国を分け隔てるがごとくのメンヘラの壁が出来上がっていました。
メンヘラの壁には「彼氏がインスタで他の女の投稿にいいねをするのが信じられないくらい耐えられない」という文言が刻まれていました。すこぶるどうでもいいねと思いました。

なんとか頑張って文章を読み込み、「相手に見返りを求めて辛くならないようにね」と返信をすると、「どういうこと?なによーるかむずかしいわ」と返ってきました。彼女には「見返りを求める」という言葉が難しすぎたらしいです。

その後もやりとりは続き、私が何を送ってもメンヘラの壁を築き続けるのでしばらくほっておいたら、ハッとしました。


インターネット古参オジサンたちには、「改行はしなければしない程カッコイイ。いかに壁のような文章を作って笑わせられるかが勝負」みたいな文化があったと聞きます。
何時間か後に最後に送られてきたメンヘラの壁には、喧嘩の話からそれて急に家族の話へとび、また結婚の話へとび、最終的にいきなり「やっぱり〇〇に話したらスッキリしたわありがと」とわたしへの感謝で幕を閉じていました。

なんたる自己完結能力!!!!!!
そしてわたしの存在価値の薄さ!!!!!!

腹が立つを通り越して、わたしは彼女のLINEをいつの間にか尊敬の眼差しで見ていました。


ブログ老害の道はまだまだ遠い。
まずはこのメンヘラの壁を壊すところからわたしの一歩はスタートする。

カーテンから漏れる光、悲しい鳴き声

誰しも記憶の中に子供の頃の少しえっちな体験があるのではないかと思う。その時はよくわからなかったけど、「今思い返すとあれって・・・」と考えるやつだ。


当時私は小学校低学年だった。その頃の私は内気さに磨きがかかっており、友達の前で自分の言いたいことを言うのがとても苦手な子供だった。お姉ちゃんの後を金魚のフンのようについて行っていたため、自分の友達よりもお姉ちゃんの友達との方が遊んでいたし、楽しかった。
近所で大きな犬を飼っている可愛い子に、私が「DSを持っているから一緒に遊ぼう」という理由で初めて遊びに誘われた時、家に帰ったらDSがぶっ壊れていて、子供ながらに「DS亡き今、彼女にとって私はなんの価値もない」と劣等感の最骨頂を見せて、泣きながらお腹が痛いふりをして断りの電話をいれたのを覚えている。


そんな時、何回か遊んだことのある子に家に誘われて私ともう一人の子で遊びに行ったことがあった。

冒頭の話に戻る。
ここからが私が体験した子供の頃のえっちな体験である。

その子の部屋で私たちは「大人のおままごとをしよう」という話になっていた。
何が大人なのかの区別は私にはよく分かっていなかったが、小学生にしてはどこで覚えてきたか分からないような、離婚の話だったりとか夫が仕事の愚痴をこぼすだとかリアルな夫婦生活を演じるというものだった。

きゃっきゃきゃっきゃと楽しく遊んでいたのだが、急にカーテンを閉め切って布団の中に入って「じゃあ寝ようか」と友達は言った。

二人はベッドの中に全身潜り込んで、何かコソコソ話していて何やら楽しそうだった。
時にはベッドがきしむように揺れて、何か動いていたりもしたようだった。


やたら第三者視点で語っていることに気づいていただけたであろうか。

そう、私はその時のおままごとで犬になっていた。正確にはゴールデンレトリバーのぺろちゃんになっていたのである。


ぺろちゃんこと私はご主人たちが何やら楽しそうにしているのをベッドの隣で見つめていた。カーテンの隙間からはまだ明るい陽の光がキラキラとこぼれている。


え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
めっちゃひま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



そう思ったぺろちゃんはご主人たちが入ってる布団をめくろうとした。すると妻役の友だちが「きゃっだめよぺろちゃん!今はあっちいってて!」と諭してきたのだった。


え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
だめなの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????


二人は楽しそうだった。
なにか身体をつつきあってるらしく「きゃっやめてよ〜」という声も聞こえてきた。
SEXの真似事をしてるのであろう。
とはいえSEXがいかようなものなのか詳しく知っている者はその場に誰一人いなかったのだ。「ベッドの中で体をつつき合う」というのが彼女たちが考えたSEXの形だったのだろうと思う。

近くで彼女たちのくぐもった声を聞く私は、そのいやらしさの何たるかは理解していなかったが、なんとなくその行為のいやらしさは感じ取っていた。

結果的に横で見ている私はどういう反応をするのが正解だったのだろうか。


「くぅ〜〜〜ん・・・・・・」


とりあえず、切なそうに鳴いた。
今思うと主人の交尾を目の当たりにした犬の反応として「くぅ〜ん」は結構正解な気がする。

「おいらにもぺろぺろさせろぺろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」と言いながらまぐわいにこっそり入るのも及第点くらいもらえるかもしれないがその時には思いつかなかった。
遊びから置いてけぼりにされてしまった疎外感。その遊びの不健全さに対する精神的居心地の悪さ。カーテンから漏れるオレンジの光を見てもう一度私は「くぅーん」と鳴いた。


小学校低学年にして、主人のセックスを目撃する犬の経験をわたしはしたのだ。人生において経験できるかは分からない犬の疑似体験。
これがわたしの幼少期におけるちょっとえっちな体験である。
皆さんもこれから生き物を飼うことがあったら気をつけて欲しい。
もうあんな悲しい声で鳴くのはわたし一人で充分だから。



ところでわたしが寝盗られもののAVが好きなこととこの一件って何か関係あったりします?

パンケーキを可愛く食べれる残り時間

最近24歳になった。
相も変わらず大人と子どもの境目なんて分からないけれど、付き合う人間が限られるようになったのは歳を重ねていったら証拠なのかもしれない。


「ごめん遅れる」

約束をしてる2人から連絡が来てわたしは珍しく「待つ側の人間」になった。いつも私は支度が遅く待たせる側になってしまう。待つ側の人間は自発的に何かしない限り誰かを不快にさせることがおそらくないので非常に気が楽だ。「りょりょ〜ん」という伸ばし棒のニョロニョロに、私の呑気さのありったけを詰めた。

先に合流したのは理性ちゃんだった。
理性ちゃんというあだ名は今つけた。頭が良くて丁度いい言葉を探すのが得意な子だけど、根っこの部分は倫理観がないみたいなことを自分でいつも言っている。倫理観が0だった幼少期のエピソードを酔うと話してくれる。いつもは理性で人間のあるべき姿を保っているので理性ちゃん。理性ちゃんは「今日午前中にジムの体験予約をいれていたのに寝坊で完全にすっぽかしたし、連絡もまだ入れてない」と私にビクビクしながら伝えてきた。理性で抑えきれぬ怠慢さがすでに見え隠れしている。私は彼女のそういう人間くさいところが好きだ。
「きっとジムのマッチョは優しいから今連絡しな・・・」と後押しをして、連絡するとやっぱり優しいマッチョが出たらしい、簡単に次の体験予約をいれていた。マッチョは大抵優しい。

私たちは食べると幸せになれるらしいネーミングのパンケーキ屋の列に並び待っていた。今日の第一ミッションであった。すると、すずめちゃんが申し訳なさそうに遅れてやってきた。すずめちゃんは過去ブログで書いたことのある友達だ。
待っている間に「キリンは寝る時に首を折り畳んで寝るらしい」という豆知識をすずめちゃんは披露してくれた。何の流れだったかも忘れたが、写真を見るとキリンは長い首を確かに折り畳んで、想像以上に小さく丸くなって寝ていた。わたしはてっきり足も首もそのままフィギュアが倒れたみたいな姿で横になってると思っていたことを告げたら「足腰の骨のつくりが頑丈すぎる」と言われた。


そうこうしてるうちに、いつもは行列に並ばないと入れないその店に私たちは運良く数分の待ち時間ではいることが出来た。

女の子はパンケーキが好きだ。甘いものを見るといつだってワクワクする脳内物質が出るように仕掛けられている。メニューを見ながら、パンケーキを選ぶ。
「パンケーキ屋のメニューのご飯メニューの美味しそうさは異常」という談義に花を咲かせながら、各々甘くて美味しそうなパンケーキを選んだ。

パンケーキを待っている間は、すずめちゃんの会社にいる「朝礼の挨拶で毎回しじみの効能を話すオジサン」の話を聞いていた。ヤマもオチもなく、ただしじみの話をするらしい。あまりに脈絡がなさすぎる。


パンケーキが到着すると、そのふわふわな厚みに目を奪われた。ひと口食べると卵の甘みが口に広がった。これぞ幸せだった。しじみジジイのことは忘れ、私たちはパンケーキの美味しさを噛み締めたのだった。
パンケーキを美味しく楽しんでいるこの瞬間、わたしたちは何歳であっても乙女なんだと思った。

 

ただ、可愛い乙女でいれる時間はなぜか年々少なくなるのである。

「・・・・・・・・・きついな・・・・・・・・・」

誰からともなくその言葉を口にする。
パンケーキは3分の1残っている。

「ちょっとそのバナナちょうだい」
「そのかぼちゃのソースくれ」

各々が自分の皿に乗っていない味を求めだす。
もう完全に甘みがいらなくなっている。
あんなに求めていた甘い刺激が、私たちの胃を苦しめている。

「クリームの下に残りのパンケーキ隠していいかな・・・」

挙句の果てにはそんなことを言い出すのだった。

「隠そう隠そう」

「もううちの地元の郷土料理ってことにしよう」

落書きと暴力が蔓延るうちの地元の郷土料理。乙女の食べ残しパンケーキ隠し。

新たな郷土料理が誕生しそうになりつつ、わたしたちは水で流し込むように残りのパンケーキを食べたのだった。
パンケーキは間違いなく美味しい。
ただ、私たちにパンケーキを受け入れるだけの乙女力が足りてなかっただけなのだ。
この場に悪い人間はいない。


パンケーキ屋を出てすぐ私たちはマックに向かい、気が狂ったように塩分を摂取した。
あんなに美味しいチキンナゲットは初めて食べた。
「恐らく思うにこれが1番正しいマックの食べ方」と私たちの中で結論もついた。
あまりにも美味しかったので店を出ながら「あー美味しかった・・・」と上質なランチを済ませたかのような呟きをしてしまった。


マックの後、時間の潰し方が分からなくてしばらく街を放浪したあと結局カラオケに行くことになった。「結局高校生からなんにも変わらないね」なんて笑った。

夜、お目当てのシーシャを吸いに、私の友達がやってるBARに行った。
お酒を飲んだ時にやったら楽しいことを全てやった結果とても楽しくなってしまった。
0時を超えた時、3人で「終電なくなっちゃった〜」と例のやつを言ってみたのだが、「そうだね〜」「ないね〜」と共感し合うことしかできず、女3人で終電逃しちゃった奴をしても、ただ困っている人たちにしかならないという気づきを得た。

その夜はお酒の力で理性ちゃんの理性がほんの少しなくなり、椎名林檎の丸の内サディスティックを3人で歌いながら家に帰った。


遊び方は高校生とほとんど変わらないけれど、少しお酒が飲めるようになって、甘いものを食べて胸焼けをするようになった私たちのスクリーンに24歳という文字が光っている。

乱交パーティは体育館で行われない

 

夢日記をつけてはいけないという話を私は信じている。

毎日起きた時に見た夢を記録することによって、自分の意識の上で夢と現実との境界線があやふやになってしまい、どこまでが夢の話だったか現実だったか分からなくなって発狂してしまうらしい。
いつだったかその話を耳にして、絶対に夢の内容を記録するのはやめようと心に誓っていた。
しかし、今日見た夢はどうにも印象的で忘れることが出来ないので、あえてブログにも留めておきたいと思う。

 

今日、夢の中で私はなにもかもがどうでもよくなってヤケクソで大規模乱交パーティに参加していた。

どうヤケクソになろうとも「いっちょ乱交しにいくか!!」とはならないと思うのだが、様々な過程をすっ飛ばして大規模乱交パーティに参加していた。


会場は体育館のようなところで、開始前に何やら主催者なのか取り締まっている人間なのかが注意事項のようなものを話していた。が、中には話を聞かずにちちくり始める輩も出ていて「真面目に話を聞きなさいよ!」とドスケベ委員長ことわたしは怒っていた。かくいう私は話の内容を全く聞いていなかった。聞けるわけがない。

いつ話が終わったのかもよく分からないが、パーティはいつの間にかスタートしており、あれやこれやと周りの人間が情事に及び始めた。私はといえば、乱交パーティに参加しているにも関わらず完全に怖気付いて「どうして会ったばかりの他人の性器及びその他もろもろを触らないといけないのか」という乱交以前の初手の疑問を今更感じていた。やる気をすっかりなくした私はバレないように人と人の間をすりぬけてやり過ごそうとしていた。

その時、わたしの手を引く者がいた。

「しまった!!!乱交に混ざってないのがバレた!!!殺される!!!!」

わたしはそう思ったが、手を引いたものを見て思考が停止した。
筋肉ゴリゴリの巨根のオカマがそこに立っていた。

びっくりした私の顔を見て「んふ」と笑っていた。

そして準備運動なしで巨根を私にぶち込もうとしていた。

 

耐えられなくなった私は声にならない声で泣き出して、
「すいません、慣れてないんです!!!すいません!!!こういうの慣れてないんです!!!!」
と全力で謝った。

するとオカマは「んま〜〜〜〜〜〜〜♡♡」となんだか喜んでおり、そのまま私の手をひいて「分かったわ♡まずお風呂でも一緒に入りに行きましょ!」と言って会場を出て、会場に隣接されている大浴場に連れていった。

 

しめた!!!!ここだ!!!!

 

わたしは乱交パーティから脱出するのはここしかないと考え、オカマを先に風呂にいれた瞬間、全速力で会場を抜け出し、身を潜めようと近くのカフェに入った。
すると、カフェの店主に「すいませんここ、シンガポール人専用のカフェなんで・・・」と言われて断られた。シンガポール人専用のカフェってなに!?と思いながら、なんとか説得を試みていたらカフェの窓から見えてしまった。

 

筋肉ゴリゴリ巨根のオカマは馬鹿でかいハサミを振り回しながら「どこじゃああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」と私のことを決死で探していた。

 

 

 


というところで目が覚めた。
起きたらなぜかバンザイのポーズを取っていた。全然バンザイではない。


この先、現実世界で私が巨根のオカマから泣きながら逃げ回っていく所を目撃したら、「夢日記をつけるのはもうやめろ、あと乱交パーティには行くな」と説いてやってください。

白い壁の前に立つ思い出

「白い壁を探してます!!!誰かいいのがあったら教えてください!」


秋も深まる九月下旬。久しぶりに見た元彼のインスタのストーリーにそんなことが書いてあった。迷い猫探すみたいな切実なテンションでなぜ壁を探してるんだお前は。一体何をやっている。
気になってしばらく彼のインスタを見てたら数日後に

「白い壁を手に入れました!!やったー!!!」

と投稿していた。ゼルダの謎解き?どこから脱出しようしている?メチャクチャ嬉しそうに白い壁の前で自撮りをしている。

いや、正確に言うと嬉しそうなのは「手に入れた」と話す文字のフォントだけで、元彼自身は白い壁の前で、肩を落として片手でもう片方の腕をつかむ、けだるそうなポーズを決めている。怪我でもしたんか。手負いの読モか。手に入れたんならもっと嬉しそうにしろ。

謎の答えは自撮りの背景にしたら写真映えする白い壁を探していた、だった。
なんじゃそれ。自撮りの肥やしを街角で探すな。DIYでもしとけ。

別れた元彼は、私と別れてしばらくしてからどこかに頭を打ち付けたのか、悪い夢から目が覚めたのか、急にファッションを追求するようになっていた。わたしと付き合っていた頃に身につけていたブランドロゴが全面にでかでかと主張されている全身コーデは全て売り、色々なタイプの服を買っては自撮りを撮りwearにアップしていた。

頭をうちつけたであろう彼は、「俺は顔を隠せばそこそこイケメンに見えるらしい」と気づいたのか、顔にモザイクをかけてwearに投稿し続けたところ、高身長がいい方向に転んだのかwearでどんどん人気者になっていき、フォロワー数は3万を超えているようだった。

その様子を見ている私はというと、なんだか変な気分だった。
私はモザイクの奥の彼の顔が吉本新喜劇小籔千豊の上位互換であることを知っていた。(さまざまな方面に失礼を働いている私の顔は、母親に「初期の浅野いにおが書く鼻がへちゃげてるブス」と評されるナリをしている。)

今ではそこそこ人気者らしい彼だが、付き合っていた頃はまあまあ私に依存をしていた。
コミュ障で人見知りのくせにそこそこ図々しいというナイスポテンシャルを発揮していた彼は、他の人より自分を尊重してほしいという欲が強かった。

私の地元の友達が私の家に泊まっているときには、気になったのかなんの用もないのに見に来て、バイクのフルフェイスのヘルメットを着けたコンビニ強盗みたいな容姿のまま私のみに一方的に話しかけてきて友達を怖がらせたり。

サークルが忙しかったので、ずっとそっちを優先していたら機嫌を損ねることも多々あった。
「俺とサークルどっちが大事なの!?」というよくある奴も聞けて「あ!よくある奴だ!」とその時はテンション上がったりした。よくある奴を間近できけるのは嬉しい。
サークルには男友達も多かったから気に入らなかったのかもしれない。


私が彼氏に束縛されているという話は仲のいいサークル連中の間でそれはもうネタにされた。誰しもみな何より「恋人とうまくいってない」系の話が好きだ。
飲み会で話は誇張されてひろがり、「梅くらげの彼氏は毎日毎日、何かしらの理由で梅くらげの接するもの全てに対して嫉妬をしているという」という伝わり方になり、さらにネタにされた。

ネタにされた結果、飲み会が頃合いになるとロシアの民謡の「1週間」の替え歌に合わせて私が酒を飲むというクソルールが産まれたりもした。

youtu.be


「月曜日はラーメンのバイト〜〜♪♪〇〇(元彼の名前)は嫉妬をしてる〜〜〜♪♪ウラウラウラウラウラウララ〜〜〜♪♪うらうらうらうーラーラー♪♪」


これを月曜日から日曜日まで何かしらの理由をつけて計7杯分その場にあった酒を飲まされるという、大富豪の馬鹿が奴隷を痛めつけるために考えた遊びをさせられていた。
曜日の中にはたまに「今日は一緒にいるから満足してる〜〜♪♪」と織り交ぜるターンもあり、そこのリアルな生々しさは必要ないだろと思っていた。

飲み会で酔ってトイレで戻すというのはありがちな流れだが、なぜかそんな無茶をしていた時はそういうことはなかった。そんなに酒は強い方でもないので今でも不思議に思う。ワイン7杯を飲んで「これはやばいかもしれない」と思った場面もあったが、なぜか後ろにいた奴が水の飲みすぎで、透明な液体をシンガポールの口から噴水を出すマーライオンみたいに出していて「ぜお前が吐く?」と冷静になり一命を取り留めたこともあった。


そんな写真映えもしないけれど、楽しかった時代をふと思い出す。
白い壁を探している元彼は、新しい彼女も出来たのか彼女の顔にもモザイクがかけられた投稿をたまにしている。私とは似ても似つかないオシャレな雰囲気の子で、ファッションセンスがある元彼とすごくお似合いだった。
1回Twitterで写真をあげてるのを私の友達が見て顔が「お前に似てる」とも言われた。
私とは価値観が合わなかったが、恋人を大切にする人だと思うので、幸せになってくれと思う。


わたしの写真フォルダは、飲んだ時に酔っ払って撮った食べ残しと空いたグラスの写真ばかりだ。もう大学生の時みたいな無茶な飲み方はしないけど、やっぱりお酒の場が好きだし、食べるのをやめて良い頃合いになった時のつくえの上が私は妙に好きなのだ。
数日たって食べかけの魚や日本酒の空瓶を見ると、その時の雰囲気が少し思い出されてうれしくなる。

白い壁を探す彼とは違う生き方をしているが、お互いそこそこに充実した日々を歩めてるんじゃないかと思ったりする。


ところで前に書いた哲学と酒をこよなく愛していた元彼は、鍵垢のTwitterで「事故にあって全身骨折しました。要介護状態です」とプロフィールに書いてあったのを見たっきり消息不明だ。


出会った思い出の人たちが、日々の中で少しでも健やかな人生を歩むと嬉しい。

刻め!ジジイサマーフェスティバル


人にはモードがある。社交的スイッチON状態とOFF状態があって、ON状態の調子がいい時は自分から初対面の相手に会話のテーマを出して、会話を盛り上げることもできる。

しかしほとんどの場合、私はOFF状態である。脳が必要以上の会話をすることを拒否している。
そんなOFF状態において、脳を通さない会話をするために、私は多様な相槌を習得することに成功した。

 

驚いてるタイプの「へぇえ!?」
噛み締めるタイプの「へぇ〜〜〜・・・」
笑いを含むタイプの「へへ(笑)へぇ〜」
切なそうな顔して斜めに頷きながら聞くタイプの「ふんふん・・・」
たまに言ってることを重ねて言うタイプの「へぇ〜〇〇・・・」

以上!梅くらげの相槌攻略辞典!

 

 

相手が喋りたがるタイプならばほとんどの場合これらのタイプの応用で会話は成立する!するのであーる!
ちなみに脳を介さずに相槌を送っているため相手が何を話しているのかは全く理解していない。理解してないけれど意外となんとかなる。
何故ならば向こうは自分の話がしたいだけであってこっちの話は求めていないのだ。

これが私がコンパニオンで働いていた時に習得した脳を介さない会話術である。
私はこのやり方で数々のおっさんと会話してきた。今後職場の飲み会や、道行く先でどんなおっさんが現れようとも私はこの相槌で対処することが出来る!!

そう思っていた。あの時までは・・・

 


その日私はイベントに参加し東京から地元へ飛行機で帰ろうとしていた。全ての用事が終わり、疲れ切っていた私はいつも通り飛行機内で寝ようかと思っていたが、疲れているのに目が冴えていた。楽しみにしていたイベントが終わり、興奮が冷めやらぬ状態だったのかもしれない。

席に座って離陸までの間、外の景色でも見ようと窓を開けた瞬間から、そのタイムは始まった。

「まだまだ夏じゃけえこの時間も明るいねえ」

声の主は隣の席のオジサンだった。
私はとっさに「そうですね」と愛想笑いを送る。
まさかの展開だった。飛行機の各席はパーソナルスペース。みな思い思いの時間を過ごす者ばかり。こんな所でコミュニケーションを取ろうとしてくる人に出くわすとは思いもよらなかったのだ。

なんならオジサンはまだ喋りたそうな雰囲気を醸し出している。
一人の時間を満喫したかったわたしは、窓の方向を見つめ、オジサンから逃走するルートを探るが、強制コミュニケーションジジイまだはなしかけてくる。どうやら逃げられないようだった。

ここだ。と思った。
私がコンパニオン時代培った脳を介さない相槌を披露する場面はここである。
こういうジジイに出くわした時最大限この能力は発揮され、わたしは会話をしてるように見せかけて、休息のひと時を得ることが出来るのだ。

さぁ来い!どんなのが来ても無敵の布陣で立ち向かってみせるぞ!
私の口は「へぇー」のモーションに移ろうとしていた。

 


「飛行機で写真撮る人っておるよね?俺の知り合い、飛行機から空の写真撮ってUFOの写真撮れちゃって、それをSNSにあげた結果すぐ削除されて、知り合いいなくなっちゃったのよ」

「へぇ、えぇ〜・・・!?」

なにそれ。急角度でヤバいジジイになるな。そんな急角度でヤバいジジイになられたら、脳が情報を処理しようと頑張り始めてしまう。休暇中の私の脳を頑張らせないでほしい。

 

「たぶん国家に追われてるんだと思うわ。ははっ!お姉さんもちょっと撮ってあげてみなよ!」

どんな気持ちで笑ってんだよコイツ。笑うな。

 

強制コミュニケーションジジイかと思いきや、ただのヤバいジジイであったことを悟った私は相手にしてたら大変なことになると思い、無敵の布陣を撤退させ、ジジイから逃走するルートに選択肢を戻した。
わたしはイベントのことを考えたいのである。iPhoneを手に取り、その日撮った写真に目を向け隣席のナチュラルヤバジジイからイベントに思考を飛ばす。

 


「あ、それってiPhone?いいね。若い人はそれがあればいくらでも暇が潰せるね。」

おいやめろ。私の脳内に無理やり入ってくるな。早くUFOに攫われてくれ。

 


「でも知ってる?iPhoneって起動した瞬間の内カメラで写真撮られて国に全部保管されてるんよ。だから今のお姉さんの顔もさ、撮られてる。」

引き続きヤバい話を提供してくるな。
なんの為にそんなことをするんだ。仮にそうだったとしてなんでお前がさっきからそれを知っている。お前は国家のなんだ。

 


「だからさ、お姉さんがお風呂に入ってiPhoneをつかってるのも・・・さ。むふふ」

殺す。絶対に殺す。もう絶対に殺すと決めた。殺ーす。むふふ。

 

 

その後ジジイによって私の無理やり脳内に運ばれてきた情報は以下の通りだ。

 

・山の頂上でセックスをするとコンドームが気圧でダメになってチンコが破裂するから気をつけた方がいい。

・俺は前の嫁に家具と一緒に断捨離されたから断捨離は程々にした方がいい。

・行きの新幹線で一緒になったオバサンが様々なヤリマンエピソードを披露してきて挙句の果てには新幹線を一緒に降りようと誘ってきた。

 


自分が何を書いてるのかわからない。とりあえず冒頭で言っていた相槌がなんの役にも立たなかったことは確かだった。

相槌をしたのかさえ覚えていないが延々と私はジジイの話を聞いてしまっていた。
聞かせる能力がジジイにはあったのだった。


1時間ちょっと時間は経過し、飛行機はもうすぐ着陸になろうとしている。
私は飛行機の離陸が遅れたトラブルで、空港から駅に向かうバスを1本遅らせなければ行けないことに気がついていた。そして話を聞くところジジイも同じバスに乗るらしい。
めくるめくジジイパレードはまだ終焉の合図がこない。

 

飛行機のナレーションがもうすぐ着陸であることを伝え、地面が近づき始めた頃、ジジイは私の方へ顔を近づけた。

 


「着陸のタイミング当ててあげる」

 

なぜ?
数々の疑問符がこの1時間のうちにあがってはいたが、それでも疑問を持たざるを得なかった。
いや、なぜ?

 

「10・・・9・・・」

 

ジジイの耳元カウントダウンが始まった。
なぜ私はジジイと共に飛行機の着陸をまっているんだ。なぜ?

 

「5・・・4・・・」

 

これ本当に飛行機着陸する?
爆発したりしない?そういう趣ない?
天国へのカウントダウンってジジイ発だったりしない?

 

「2・・・1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゼロ・・・・・・・・・・・・・・・」

 

予測が外れたからってゼロをここぞとばかりにためるな。


ナレーション「(ポーン♪)飛行機が着陸致しました。」

 

そんでちょっと惜しいんかい。
ジジイカウントダウンバトルでニアピン賞をとるな。


私は疲れ切っていた。
私が学んできた相槌は本物のヤバいジジイには通用することはないし、飛行機を降りてもジジイトロピカルパレードはきっと続く。
20数年、そこそこを生きてきたからって、偉そうに自分の得たものを誇ろうとするのはやめようと思った。壁は簡単に現れる。
これからは謙虚に、目の前のものに等身大の自分でぶつかっていこう。

次のバスの時間まであと1時間ある。さあ、トロピカルパレードの続きだ。


シートベルトを外す許可が出され、意気込んで、私は隣を見た。


するとジジイはまっすぐ出口を見据え、私の方を見ていなかった。


え?
なぜ?
急に?


飛行機が着いた途端、コミュニケーションジジイは普通の寡黙なおじさんになっていた。
あまりに喋らないので、こっちが気まずくなって、私はいつの間にか「ありがとうございました」と礼を言っていた。
なんの礼だ。むしろこっちが感謝してほしい。
そして私の礼にも「ども・・・」みたいな軽い会釈で返してくるジジイ。

挙句の果てには出口が開通した瞬間、すごいスピードでジジイは去っていった。

まかれた。

まく側である私がジジイにまかれていた。

 

 


なぜ?

 

 

 

これが私の体験したことの全てである。
ちなみに私が行ったイベントのタイトルは「みくのしんサマーフェスティバル」だったのだが、行ってみたらそのタイトルも嘘だった。
なんなんだそれ。
真夏の夜の夢の歌詞って覚えてないけど、こんな歌だったりします?