リハビリ人生

知り合いに「アケスケなブログ」って言われました。あけみって名前のスケバン?って思ってたら赤裸々って意味でした。

パンケーキを可愛く食べれる残り時間

最近24歳になった。
相も変わらず大人と子どもの境目なんて分からないけれど、付き合う人間が限られるようになったのは歳を重ねていったら証拠なのかもしれない。


「ごめん遅れる」

約束をしてる2人から連絡が来てわたしは珍しく「待つ側の人間」になった。いつも私は支度が遅く待たせる側になってしまう。待つ側の人間は自発的に何かしない限り誰かを不快にさせることがおそらくないので非常に気が楽だ。「りょりょ〜ん」という伸ばし棒のニョロニョロに、私の呑気さのありったけを詰めた。

先に合流したのは理性ちゃんだった。
理性ちゃんというあだ名は今つけた。頭が良くて丁度いい言葉を探すのが得意な子だけど、根っこの部分は倫理観がないみたいなことを自分でいつも言っている。倫理観が0だった幼少期のエピソードを酔うと話してくれる。いつもは理性で人間のあるべき姿を保っているので理性ちゃん。理性ちゃんは「今日午前中にジムの体験予約をいれていたのに寝坊で完全にすっぽかしたし、連絡もまだ入れてない」と私にビクビクしながら伝えてきた。理性で抑えきれぬ怠慢さがすでに見え隠れしている。私は彼女のそういう人間くさいところが好きだ。
「きっとジムのマッチョは優しいから今連絡しな・・・」と後押しをして、連絡するとやっぱり優しいマッチョが出たらしい、簡単に次の体験予約をいれていた。マッチョは大抵優しい。

私たちは食べると幸せになれるらしいネーミングのパンケーキ屋の列に並び待っていた。今日の第一ミッションであった。すると、すずめちゃんが申し訳なさそうに遅れてやってきた。すずめちゃんは過去ブログで書いたことのある友達だ。
待っている間に「キリンは寝る時に首を折り畳んで寝るらしい」という豆知識をすずめちゃんは披露してくれた。何の流れだったかも忘れたが、写真を見るとキリンは長い首を確かに折り畳んで、想像以上に小さく丸くなって寝ていた。わたしはてっきり足も首もそのままフィギュアが倒れたみたいな姿で横になってると思っていたことを告げたら「足腰の骨のつくりが頑丈すぎる」と言われた。


そうこうしてるうちに、いつもは行列に並ばないと入れないその店に私たちは運良く数分の待ち時間ではいることが出来た。

女の子はパンケーキが好きだ。甘いものを見るといつだってワクワクする脳内物質が出るように仕掛けられている。メニューを見ながら、パンケーキを選ぶ。
「パンケーキ屋のメニューのご飯メニューの美味しそうさは異常」という談義に花を咲かせながら、各々甘くて美味しそうなパンケーキを選んだ。

パンケーキを待っている間は、すずめちゃんの会社にいる「朝礼の挨拶で毎回しじみの効能を話すオジサン」の話を聞いていた。ヤマもオチもなく、ただしじみの話をするらしい。あまりに脈絡がなさすぎる。


パンケーキが到着すると、そのふわふわな厚みに目を奪われた。ひと口食べると卵の甘みが口に広がった。これぞ幸せだった。しじみジジイのことは忘れ、私たちはパンケーキの美味しさを噛み締めたのだった。
パンケーキを美味しく楽しんでいるこの瞬間、わたしたちは何歳であっても乙女なんだと思った。

 

ただ、可愛い乙女でいれる時間はなぜか年々少なくなるのである。

「・・・・・・・・・きついな・・・・・・・・・」

誰からともなくその言葉を口にする。
パンケーキは3分の1残っている。

「ちょっとそのバナナちょうだい」
「そのかぼちゃのソースくれ」

各々が自分の皿に乗っていない味を求めだす。
もう完全に甘みがいらなくなっている。
あんなに求めていた甘い刺激が、私たちの胃を苦しめている。

「クリームの下に残りのパンケーキ隠していいかな・・・」

挙句の果てにはそんなことを言い出すのだった。

「隠そう隠そう」

「もううちの地元の郷土料理ってことにしよう」

落書きと暴力が蔓延るうちの地元の郷土料理。乙女の食べ残しパンケーキ隠し。

新たな郷土料理が誕生しそうになりつつ、わたしたちは水で流し込むように残りのパンケーキを食べたのだった。
パンケーキは間違いなく美味しい。
ただ、私たちにパンケーキを受け入れるだけの乙女力が足りてなかっただけなのだ。
この場に悪い人間はいない。


パンケーキ屋を出てすぐ私たちはマックに向かい、気が狂ったように塩分を摂取した。
あんなに美味しいチキンナゲットは初めて食べた。
「恐らく思うにこれが1番正しいマックの食べ方」と私たちの中で結論もついた。
あまりにも美味しかったので店を出ながら「あー美味しかった・・・」と上質なランチを済ませたかのような呟きをしてしまった。


マックの後、時間の潰し方が分からなくてしばらく街を放浪したあと結局カラオケに行くことになった。「結局高校生からなんにも変わらないね」なんて笑った。

夜、お目当てのシーシャを吸いに、私の友達がやってるBARに行った。
お酒を飲んだ時にやったら楽しいことを全てやった結果とても楽しくなってしまった。
0時を超えた時、3人で「終電なくなっちゃった〜」と例のやつを言ってみたのだが、「そうだね〜」「ないね〜」と共感し合うことしかできず、女3人で終電逃しちゃった奴をしても、ただ困っている人たちにしかならないという気づきを得た。

その夜はお酒の力で理性ちゃんの理性がほんの少しなくなり、椎名林檎の丸の内サディスティックを3人で歌いながら家に帰った。


遊び方は高校生とほとんど変わらないけれど、少しお酒が飲めるようになって、甘いものを食べて胸焼けをするようになった私たちのスクリーンに24歳という文字が光っている。

乱交パーティは体育館で行われない

 

夢日記をつけてはいけないという話を私は信じている。

毎日起きた時に見た夢を記録することによって、自分の意識の上で夢と現実との境界線があやふやになってしまい、どこまでが夢の話だったか現実だったか分からなくなって発狂してしまうらしい。
いつだったかその話を耳にして、絶対に夢の内容を記録するのはやめようと心に誓っていた。
しかし、今日見た夢はどうにも印象的で忘れることが出来ないので、あえてブログにも留めておきたいと思う。

 

今日、夢の中で私はなにもかもがどうでもよくなってヤケクソで大規模乱交パーティに参加していた。

どうヤケクソになろうとも「いっちょ乱交しにいくか!!」とはならないと思うのだが、様々な過程をすっ飛ばして大規模乱交パーティに参加していた。


会場は体育館のようなところで、開始前に何やら主催者なのか取り締まっている人間なのかが注意事項のようなものを話していた。が、中には話を聞かずにちちくり始める輩も出ていて「真面目に話を聞きなさいよ!」とドスケベ委員長ことわたしは怒っていた。かくいう私は話の内容を全く聞いていなかった。聞けるわけがない。

いつ話が終わったのかもよく分からないが、パーティはいつの間にかスタートしており、あれやこれやと周りの人間が情事に及び始めた。私はといえば、乱交パーティに参加しているにも関わらず完全に怖気付いて「どうして会ったばかりの他人の性器及びその他もろもろを触らないといけないのか」という乱交以前の初手の疑問を今更感じていた。やる気をすっかりなくした私はバレないように人と人の間をすりぬけてやり過ごそうとしていた。

その時、わたしの手を引く者がいた。

「しまった!!!乱交に混ざってないのがバレた!!!殺される!!!!」

わたしはそう思ったが、手を引いたものを見て思考が停止した。
筋肉ゴリゴリの巨根のオカマがそこに立っていた。

びっくりした私の顔を見て「んふ」と笑っていた。

そして準備運動なしで巨根を私にぶち込もうとしていた。

 

耐えられなくなった私は声にならない声で泣き出して、
「すいません、慣れてないんです!!!すいません!!!こういうの慣れてないんです!!!!」
と全力で謝った。

するとオカマは「んま〜〜〜〜〜〜〜♡♡」となんだか喜んでおり、そのまま私の手をひいて「分かったわ♡まずお風呂でも一緒に入りに行きましょ!」と言って会場を出て、会場に隣接されている大浴場に連れていった。

 

しめた!!!!ここだ!!!!

 

わたしは乱交パーティから脱出するのはここしかないと考え、オカマを先に風呂にいれた瞬間、全速力で会場を抜け出し、身を潜めようと近くのカフェに入った。
すると、カフェの店主に「すいませんここ、シンガポール人専用のカフェなんで・・・」と言われて断られた。シンガポール人専用のカフェってなに!?と思いながら、なんとか説得を試みていたらカフェの窓から見えてしまった。

 

筋肉ゴリゴリ巨根のオカマは馬鹿でかいハサミを振り回しながら「どこじゃああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」と私のことを決死で探していた。

 

 

 


というところで目が覚めた。
起きたらなぜかバンザイのポーズを取っていた。全然バンザイではない。


この先、現実世界で私が巨根のオカマから泣きながら逃げ回っていく所を目撃したら、「夢日記をつけるのはもうやめろ、あと乱交パーティには行くな」と説いてやってください。

白い壁の前に立つ思い出

「白い壁を探してます!!!誰かいいのがあったら教えてください!」


秋も深まる九月下旬。久しぶりに見た元彼のインスタのストーリーにそんなことが書いてあった。迷い猫探すみたいな切実なテンションでなぜ壁を探してるんだお前は。一体何をやっている。
気になってしばらく彼のインスタを見てたら数日後に

「白い壁を手に入れました!!やったー!!!」

と投稿していた。ゼルダの謎解き?どこから脱出しようしている?メチャクチャ嬉しそうに白い壁の前で自撮りをしている。

いや、正確に言うと嬉しそうなのは「手に入れた」と話す文字のフォントだけで、元彼自身は白い壁の前で、肩を落として片手でもう片方の腕をつかむ、けだるそうなポーズを決めている。怪我でもしたんか。手負いの読モか。手に入れたんならもっと嬉しそうにしろ。

謎の答えは自撮りの背景にしたら写真映えする白い壁を探していた、だった。
なんじゃそれ。自撮りの肥やしを街角で探すな。DIYでもしとけ。

別れた元彼は、私と別れてしばらくしてからどこかに頭を打ち付けたのか、悪い夢から目が覚めたのか、急にファッションを追求するようになっていた。わたしと付き合っていた頃に身につけていたブランドロゴが全面にでかでかと主張されている全身コーデは全て売り、色々なタイプの服を買っては自撮りを撮りwearにアップしていた。

頭をうちつけたであろう彼は、「俺は顔を隠せばそこそこイケメンに見えるらしい」と気づいたのか、顔にモザイクをかけてwearに投稿し続けたところ、高身長がいい方向に転んだのかwearでどんどん人気者になっていき、フォロワー数は3万を超えているようだった。

その様子を見ている私はというと、なんだか変な気分だった。
私はモザイクの奥の彼の顔が吉本新喜劇小籔千豊の上位互換であることを知っていた。(さまざまな方面に失礼を働いている私の顔は、母親に「初期の浅野いにおが書く鼻がへちゃげてるブス」と評されるナリをしている。)

今ではそこそこ人気者らしい彼だが、付き合っていた頃はまあまあ私に依存をしていた。
コミュ障で人見知りのくせにそこそこ図々しいというナイスポテンシャルを発揮していた彼は、他の人より自分を尊重してほしいという欲が強かった。

私の地元の友達が私の家に泊まっているときには、気になったのかなんの用もないのに見に来て、バイクのフルフェイスのヘルメットを着けたコンビニ強盗みたいな容姿のまま私のみに一方的に話しかけてきて友達を怖がらせたり。

サークルが忙しかったので、ずっとそっちを優先していたら機嫌を損ねることも多々あった。
「俺とサークルどっちが大事なの!?」というよくある奴も聞けて「あ!よくある奴だ!」とその時はテンション上がったりした。よくある奴を間近できけるのは嬉しい。
サークルには男友達も多かったから気に入らなかったのかもしれない。


私が彼氏に束縛されているという話は仲のいいサークル連中の間でそれはもうネタにされた。誰しもみな何より「恋人とうまくいってない」系の話が好きだ。
飲み会で話は誇張されてひろがり、「梅くらげの彼氏は毎日毎日、何かしらの理由で梅くらげの接するもの全てに対して嫉妬をしているという」という伝わり方になり、さらにネタにされた。

ネタにされた結果、飲み会が頃合いになるとロシアの民謡の「1週間」の替え歌に合わせて私が酒を飲むというクソルールが産まれたりもした。

youtu.be


「月曜日はラーメンのバイト〜〜♪♪〇〇(元彼の名前)は嫉妬をしてる〜〜〜♪♪ウラウラウラウラウラウララ〜〜〜♪♪うらうらうらうーラーラー♪♪」


これを月曜日から日曜日まで何かしらの理由をつけて計7杯分その場にあった酒を飲まされるという、大富豪の馬鹿が奴隷を痛めつけるために考えた遊びをさせられていた。
曜日の中にはたまに「今日は一緒にいるから満足してる〜〜♪♪」と織り交ぜるターンもあり、そこのリアルな生々しさは必要ないだろと思っていた。

飲み会で酔ってトイレで戻すというのはありがちな流れだが、なぜかそんな無茶をしていた時はそういうことはなかった。そんなに酒は強い方でもないので今でも不思議に思う。ワイン7杯を飲んで「これはやばいかもしれない」と思った場面もあったが、なぜか後ろにいた奴が水の飲みすぎで、透明な液体をシンガポールの口から噴水を出すマーライオンみたいに出していて「ぜお前が吐く?」と冷静になり一命を取り留めたこともあった。


そんな写真映えもしないけれど、楽しかった時代をふと思い出す。
白い壁を探している元彼は、新しい彼女も出来たのか彼女の顔にもモザイクがかけられた投稿をたまにしている。私とは似ても似つかないオシャレな雰囲気の子で、ファッションセンスがある元彼とすごくお似合いだった。
1回Twitterで写真をあげてるのを私の友達が見て顔が「お前に似てる」とも言われた。
私とは価値観が合わなかったが、恋人を大切にする人だと思うので、幸せになってくれと思う。


わたしの写真フォルダは、飲んだ時に酔っ払って撮った食べ残しと空いたグラスの写真ばかりだ。もう大学生の時みたいな無茶な飲み方はしないけど、やっぱりお酒の場が好きだし、食べるのをやめて良い頃合いになった時のつくえの上が私は妙に好きなのだ。
数日たって食べかけの魚や日本酒の空瓶を見ると、その時の雰囲気が少し思い出されてうれしくなる。

白い壁を探す彼とは違う生き方をしているが、お互いそこそこに充実した日々を歩めてるんじゃないかと思ったりする。


ところで前に書いた哲学と酒をこよなく愛していた元彼は、鍵垢のTwitterで「事故にあって全身骨折しました。要介護状態です」とプロフィールに書いてあったのを見たっきり消息不明だ。


出会った思い出の人たちが、日々の中で少しでも健やかな人生を歩むと嬉しい。

刻め!ジジイサマーフェスティバル


人にはモードがある。社交的スイッチON状態とOFF状態があって、ON状態の調子がいい時は自分から初対面の相手に会話のテーマを出して、会話を盛り上げることもできる。

しかしほとんどの場合、私はOFF状態である。脳が必要以上の会話をすることを拒否している。
そんなOFF状態において、脳を通さない会話をするために、私は多様な相槌を習得することに成功した。

 

驚いてるタイプの「へぇえ!?」
噛み締めるタイプの「へぇ〜〜〜・・・」
笑いを含むタイプの「へへ(笑)へぇ〜」
切なそうな顔して斜めに頷きながら聞くタイプの「ふんふん・・・」
たまに言ってることを重ねて言うタイプの「へぇ〜〇〇・・・」

以上!梅くらげの相槌攻略辞典!

 

 

相手が喋りたがるタイプならばほとんどの場合これらのタイプの応用で会話は成立する!するのであーる!
ちなみに脳を介さずに相槌を送っているため相手が何を話しているのかは全く理解していない。理解してないけれど意外となんとかなる。
何故ならば向こうは自分の話がしたいだけであってこっちの話は求めていないのだ。

これが私がコンパニオンで働いていた時に習得した脳を介さない会話術である。
私はこのやり方で数々のおっさんと会話してきた。今後職場の飲み会や、道行く先でどんなおっさんが現れようとも私はこの相槌で対処することが出来る!!

そう思っていた。あの時までは・・・

 


その日私はイベントに参加し東京から地元へ飛行機で帰ろうとしていた。全ての用事が終わり、疲れ切っていた私はいつも通り飛行機内で寝ようかと思っていたが、疲れているのに目が冴えていた。楽しみにしていたイベントが終わり、興奮が冷めやらぬ状態だったのかもしれない。

席に座って離陸までの間、外の景色でも見ようと窓を開けた瞬間から、そのタイムは始まった。

「まだまだ夏じゃけえこの時間も明るいねえ」

声の主は隣の席のオジサンだった。
私はとっさに「そうですね」と愛想笑いを送る。
まさかの展開だった。飛行機の各席はパーソナルスペース。みな思い思いの時間を過ごす者ばかり。こんな所でコミュニケーションを取ろうとしてくる人に出くわすとは思いもよらなかったのだ。

なんならオジサンはまだ喋りたそうな雰囲気を醸し出している。
一人の時間を満喫したかったわたしは、窓の方向を見つめ、オジサンから逃走するルートを探るが、強制コミュニケーションジジイまだはなしかけてくる。どうやら逃げられないようだった。

ここだ。と思った。
私がコンパニオン時代培った脳を介さない相槌を披露する場面はここである。
こういうジジイに出くわした時最大限この能力は発揮され、わたしは会話をしてるように見せかけて、休息のひと時を得ることが出来るのだ。

さぁ来い!どんなのが来ても無敵の布陣で立ち向かってみせるぞ!
私の口は「へぇー」のモーションに移ろうとしていた。

 


「飛行機で写真撮る人っておるよね?俺の知り合い、飛行機から空の写真撮ってUFOの写真撮れちゃって、それをSNSにあげた結果すぐ削除されて、知り合いいなくなっちゃったのよ」

「へぇ、えぇ〜・・・!?」

なにそれ。急角度でヤバいジジイになるな。そんな急角度でヤバいジジイになられたら、脳が情報を処理しようと頑張り始めてしまう。休暇中の私の脳を頑張らせないでほしい。

 

「たぶん国家に追われてるんだと思うわ。ははっ!お姉さんもちょっと撮ってあげてみなよ!」

どんな気持ちで笑ってんだよコイツ。笑うな。

 

強制コミュニケーションジジイかと思いきや、ただのヤバいジジイであったことを悟った私は相手にしてたら大変なことになると思い、無敵の布陣を撤退させ、ジジイから逃走するルートに選択肢を戻した。
わたしはイベントのことを考えたいのである。iPhoneを手に取り、その日撮った写真に目を向け隣席のナチュラルヤバジジイからイベントに思考を飛ばす。

 


「あ、それってiPhone?いいね。若い人はそれがあればいくらでも暇が潰せるね。」

おいやめろ。私の脳内に無理やり入ってくるな。早くUFOに攫われてくれ。

 


「でも知ってる?iPhoneって起動した瞬間の内カメラで写真撮られて国に全部保管されてるんよ。だから今のお姉さんの顔もさ、撮られてる。」

引き続きヤバい話を提供してくるな。
なんの為にそんなことをするんだ。仮にそうだったとしてなんでお前がさっきからそれを知っている。お前は国家のなんだ。

 


「だからさ、お姉さんがお風呂に入ってiPhoneをつかってるのも・・・さ。むふふ」

殺す。絶対に殺す。もう絶対に殺すと決めた。殺ーす。むふふ。

 

 

その後ジジイによって私の無理やり脳内に運ばれてきた情報は以下の通りだ。

 

・山の頂上でセックスをするとコンドームが気圧でダメになってチンコが破裂するから気をつけた方がいい。

・俺は前の嫁に家具と一緒に断捨離されたから断捨離は程々にした方がいい。

・行きの新幹線で一緒になったオバサンが様々なヤリマンエピソードを披露してきて挙句の果てには新幹線を一緒に降りようと誘ってきた。

 


自分が何を書いてるのかわからない。とりあえず冒頭で言っていた相槌がなんの役にも立たなかったことは確かだった。

相槌をしたのかさえ覚えていないが延々と私はジジイの話を聞いてしまっていた。
聞かせる能力がジジイにはあったのだった。


1時間ちょっと時間は経過し、飛行機はもうすぐ着陸になろうとしている。
私は飛行機の離陸が遅れたトラブルで、空港から駅に向かうバスを1本遅らせなければ行けないことに気がついていた。そして話を聞くところジジイも同じバスに乗るらしい。
めくるめくジジイパレードはまだ終焉の合図がこない。

 

飛行機のナレーションがもうすぐ着陸であることを伝え、地面が近づき始めた頃、ジジイは私の方へ顔を近づけた。

 


「着陸のタイミング当ててあげる」

 

なぜ?
数々の疑問符がこの1時間のうちにあがってはいたが、それでも疑問を持たざるを得なかった。
いや、なぜ?

 

「10・・・9・・・」

 

ジジイの耳元カウントダウンが始まった。
なぜ私はジジイと共に飛行機の着陸をまっているんだ。なぜ?

 

「5・・・4・・・」

 

これ本当に飛行機着陸する?
爆発したりしない?そういう趣ない?
天国へのカウントダウンってジジイ発だったりしない?

 

「2・・・1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゼロ・・・・・・・・・・・・・・・」

 

予測が外れたからってゼロをここぞとばかりにためるな。


ナレーション「(ポーン♪)飛行機が着陸致しました。」

 

そんでちょっと惜しいんかい。
ジジイカウントダウンバトルでニアピン賞をとるな。


私は疲れ切っていた。
私が学んできた相槌は本物のヤバいジジイには通用することはないし、飛行機を降りてもジジイトロピカルパレードはきっと続く。
20数年、そこそこを生きてきたからって、偉そうに自分の得たものを誇ろうとするのはやめようと思った。壁は簡単に現れる。
これからは謙虚に、目の前のものに等身大の自分でぶつかっていこう。

次のバスの時間まであと1時間ある。さあ、トロピカルパレードの続きだ。


シートベルトを外す許可が出され、意気込んで、私は隣を見た。


するとジジイはまっすぐ出口を見据え、私の方を見ていなかった。


え?
なぜ?
急に?


飛行機が着いた途端、コミュニケーションジジイは普通の寡黙なおじさんになっていた。
あまりに喋らないので、こっちが気まずくなって、私はいつの間にか「ありがとうございました」と礼を言っていた。
なんの礼だ。むしろこっちが感謝してほしい。
そして私の礼にも「ども・・・」みたいな軽い会釈で返してくるジジイ。

挙句の果てには出口が開通した瞬間、すごいスピードでジジイは去っていった。

まかれた。

まく側である私がジジイにまかれていた。

 

 


なぜ?

 

 

 

これが私の体験したことの全てである。
ちなみに私が行ったイベントのタイトルは「みくのしんサマーフェスティバル」だったのだが、行ってみたらそのタイトルも嘘だった。
なんなんだそれ。
真夏の夜の夢の歌詞って覚えてないけど、こんな歌だったりします?

レモン酎ハイは二日酔いに効く


「遺憾の意」って言葉聞いてみんな何も思わないの?


「〇〇議員の発言を巡る問題について△大臣は遺憾の意を表明した」みたいな文章。

遺憾の意という言葉が使われるニュースは大抵いい話ではない。そりゃそうだ。誰かがカンカンに怒っているのだから、どこぞのにゃんこがどこぞの駅の駅長に就任したニュースに遺憾の意はつかわれない。
わたしはあの「遺憾の意」を初めて耳にした時、頭からそれがしばらく離れなかった。それは語感が面白いというのみの理由である。口から発した時のテンポというか発声の感じというか、なんとなくひっかかる言葉っていくつかあると思う。

 

あなたはドレミの歌を歌えるか。
ドーはドーナツのドーのやつだ。
外資系の人が電話口でよくやる「AはアメィリキャッのAです」と同じ感覚のやつ。
ドレミの歌をちょっと歌ってみてほしい。

 


ドーはドーナツのドー

 

レーはレモンのレー

 

ミーはみんなーのミー

 

 


はいはいはい!
ストップストップ!!!
ストップシンキング!!!

 

なぜ止めたか。
3番目の言葉の時点で語彙力がつきて急に「みんな」というそれが何を指しているのか分からない曖昧な概念をぶちこまれたことにびっくりしたわけではない。それを言ったら「シは幸せよ」って急に語りかけてくる姿勢を取ってくる「シ」の行も納得いってないんだけど。

 

2番目2番目。

レーはレモンのレー

これ聞いてなんか気づかない?

気づいた?

 

 

 


「レーはレモンのレーーー♪

いーは遺憾の意〜〜〜〜〜♪」

大体一緒!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 


世紀の大発明。私が平成最後の発明王梅くらげちゃんでい!

 

もしもド音の次の音の呼び方が「イ」だったら「イーは遺憾のイ〜♪」って子供が歌っていた可能性ある。そしたら小学校に上がる前から「遺憾」なんてムズい言語を習得することが出来るし、漢字の勉強してる時も『「遺憾」よりは画数すくねぇし勉強なんて楽勝すぎるぜ!』と勉強への抵抗感もなくせる!

 

あと、レモンのレが遺憾の意になるならば、遺憾の意がレモンのレになる可能性だってあるだろう。
そしたらどうよ。

 

 


「芸能人〇〇の不倫疑惑にファンや関係者はレモンのレを表明した」

「今回起こった汚職事件に対し、〇〇市市長は『このような事態が起きてしまったことは大変レモンであります』」

 

 

和む〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪

チョー和む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪

大変レモンってなに〜〜〜〜〜〜♪

すっぱい顔してるってことかな〜〜〜〜〜〜〜〜♪

 

 

なんか最近こういうことばっか考えてるんですけど、飲み会の話の内容ってこんなことで良くないですか?

仕事を辞めたいのも分かるし、職場にも学校にも1人は絶対に気に入らない人がいるし。
彼氏は欲しいし、いたらいたで結婚のタイミングだって分からないしもしかしたら浮気に走る人間だっているし。
周りの子は結婚し始めて、インスタグラムに婚姻届を2人で持つ写真をアップして、その画像を肴に、その子の元彼の話とか恋愛遍歴とか本当に上手くいくのかとか何目線なのかよく分からない評論をしたくなるのもわかる。

そんな夜をツマミにお酒やタバコを消費するのもきっと楽しいし実際にわたしは毎日割と楽しいのだけれど。

 

何の未来にもつながることない
とびっきりのどうでも良いことを話して次の日全然覚えてないみたいな夜を過ごしません?

生産性なんて言葉、この世で一番面白くない。


そういえばこの前、初めて経験するくらいのひどい二日酔いの日に迎え酒でレモン酎ハイを飲んだ。レモン酎ハイを飲んでたのは酒を覚えたての頃で皆に合わせて酔っ払うために安い居酒屋で消費する時間のお供というイメージだったのだけれど。久しぶりに飲んだレモン酎ハイは酸っぱくて、ピリッと炭酸が喉を潤して、すごく美味しかった。

そのことを考慮するとレモンのレは遺憾の意にはそぐわないと思った。

気づかれないから今日も暗闇を歩く

広い世界。わたしの願い事はもしかするとおこがましいのかもしれない。
「私の存在に気づいて欲しい」
息を吸ってはいて、世の中にほんの少しの影響と変化を与えて、誰に命じられることもなく、あるがままに生きている私。

この世界でわたしはどれだけ小さいんだろうか。わたしがいなくなったその日、消費税が15パーセントに上がって、「タバコを買うのがまたしんどくなった」とどこかでニコチン中毒者が不服を漏らして、その彼女が「わたしの洋服にタバコの煙がつかなくなる日は近いかもしれない」と晴れやかな顔で笑ったりもするかもしれない。
もっともわたしが死ぬことと、消費税があがるかもしれないことと、タバコ吸いの彼女の溜飲が下がるかもしれないことは、何の因果関係もないので、これはわたしの妄想に過ぎない。

やっぱりそこまでの影響力を及ぼさず、知らない誰かに私を気づかれないまま終わっていく毎日がそこにあるのだと思う。

わたしの生き死にが世の中のタバコのモクモクに影響を及ぼさないとわかったうえで、やっぱりわたしは「私の存在に気づいてほしいな」と思う。


ほらまた消えた。


職場でわたしがまだ奥の個室に入っているのに、用を済ませてトイレの電気を消していく知らない誰か。
わたしはトイレでよくぼーっとしていて用を足したあとも座り続けているため、存在に気づかれない。

わたしはお前のために、わたしの存在をいつもアピールしている。
音姫を無駄に再生して音姫の電池量を消費している。トイレットペーパーホルダーを下からアッパーして紙を巻かずにカラカラの類似音を出す。謎の地団駄を立ててみたりする。
そうしていると、気づいてもらえて電気を消されないこともある。

けど今日も消えた。アピールが足らなかった。
今日もわたしの存在はなかったことになった。タバコの煙はモクモク出るし、トイレの電気は消えてしまう。


用は足してるけど、なんとなくブツは流さずとりあえず電気をつけに歩く。今人が来たら困る。なぜなら今わたしはいないことになっている。
いくつか並んだ個室を横切り、照明のスイッチまでは地味に遠い。自分を証明するスイッチまでの真っ暗闇な道のりを歩く。
この道のりがほぼ人生なんだろうなと思う今日だった。

正解のキスはお酒の匂いがした

コンパニオンではお酒の入った男性を相手にするのである。そして、キャバクラのように守ってくれるボーイなども存在しないので、場合によってはお客様が無理やり女の子に触り出すこともある。

そんなコンパニオン。
宴会コンパニオンとして働いていた時、何回か「これはどうするのが正解なんだ?」と思ったことがあった。
これは、私がコンパニオンをしていて一番難しかった事案である。

 

その日私はサブチーフとして宴席に入っていた。(チーフやサブチーフは宴会によって事務所にわりあてられる。チーフは幹事に二次会の交渉をしたり事務所への連絡などをし、サブチーフはチーフのアシスト及び、女の子の席移動の指示などをしたりする。)


女の子は10人ほど。
どうやら初めてうちのコンパニオンを呼んでくれた会社らしかった。
打ち合わせから帰ってきたチーフは「今日はやばいかもしれない」と私に告げた。
私はチーフの「やばい」をガラの悪いお客さんが多いのかな、くらいに認識した。
そのあとやばさを肌で実感することとなった。

乾杯の合図があるまで、コンパニオンは宴会場の廊下で待っている。
その日はえらく乾杯に至るまでが長かった。
というか全員揃っているであろうに何の物音も聞こえない。
静けさに包まれている。
姿勢を維持しながらもいつ始まるんだと気になっていたら急にカラオケが始まった。

長渕剛の曲だった。
はぁ〜んカラオケしてから盛り上がって乾杯に行く奴ねと思った。しかし、どうやら盛り上がってはいない。
長渕剛の曲をしっとりと歌い上げている。
なんならよく聞くと歌声に嗚咽が混じっていることに気付いた。

「このオッサン・・・乾杯前に長渕剛をしっとりと歌いながら泣いている・・・?!」

いまだ静けさに包まれている会場に、そりゃ乾杯前にこんな雰囲気にさせられたらこうなるよね!?と共感の意。
お酒の席だよ!元気に行こうよ!と思っていたのだが、乾杯の合図があり部屋の中に入って整列した瞬間チーフが言っていた「ヤバさ」の正体を知った。


どう見てもカタギの人間ではない風貌の人たち。
笑みを一切浮かべずこちらを見つめる男達。
袖から見える墨の跡。
マイクを戻す涙目の厳つい顔のオッサン。
そして、

端には一人の男の写真立てとビール。

 

 

あ、そゆこと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????????????????????

 


全てを理解した私は、今日の目標を「延長をとる」ではなく「生きて帰る」に変更した。

呆気にとられていると、涙目の親分から「はよ注ぎに来いや!!!!!」と怒声が飛び交った。乾杯終わりに飲み干したであろう一人一人のグラスに私たちは急いでビールを注ぐ。

そして私は最初の難関に立ちはだかる。

この写真のお方にはビールをお注ぎした方がええんですか・・・・・・・・・??????

周りを見渡すもまだ談笑すら始まってない空気。様々な思い出があるであろうこの写真の方に、私みたいな人生の酸いも甘いも経験してない小娘がビールを注いでええんですかい・・・・・・・・・????

どうしようか迷っていたら親分がそこへ来て「貸せ!!!!!」と手を差し伸べてきたので、急いでビンのフタを開けて「はい!!!!!」と渡す。

おやびんは写真の人物のグラスにビールを注ぎ、自分のおちょことカチンと合わせ、しっぽりと飲み始める。
完全に話しかけてはいけない空気なので、かろうじて話しかけられる人の元へ移動しようと思っていたらチーフから声がかかる。

「今日しらぽんちゃん、上座固定で」

ありがたいお導きかと思えば、地獄への誘いだった。
上座は親分とその右腕左腕の席で親分は今私の横で写真の人としっぽりキメている。
今日の宴席は、親分の機嫌に全てかかっている。今の所声をあげたり激しい態度をとってくるのは親分だけだった。
親分の機嫌が保てれば今日の宴席は無事終わる。生きて家に帰れる。


静けさからようやく談笑もできるようになり、下座の方から「俺ちんぽまで墨入っとんよ!!!見る!?」という声も聞こえてきた。正直そっちと変わりたかった。
下ネタトークを率先してやりたいわけではないが、今なら「何の墨!?昇り龍!?」とか合いの手を入れて盛り上げられる気がする。

願いは叶わず親分が上座にしっぽり帰還をキメた。
ここからが勝負だ、と思い私は心の刀をキンッとひく。


構えて向かったものの、思っていた以上に親分とは早めに打ち解けることが出来た。
親分に気に入られた理由は主に2つだった。

1つ目が私の名前が、昔好きだった女の名前だったということ。
2つ目が私の出身地が親分の好きな場所だったこと。

とても怖かったが、これでなんとか無事に生きて帰れると思った。人は見た目で判断するべきではないのかもしれない。親分は嬉しそうに私の名前と同じ名前の女の思い出を語った。
涙ながらに長渕剛を歌った彼は人情にあつく、思いやりのある人なのかもしれない。

「ええか、女はずっと美しくあれよ」

親分は私の目を見てそう言った。
私はそれを義務のように受け取った。

 

宴会は縁もたけなわとなり、地獄のムードで始まった空間も今では和気あいあいとしていた。
最後の曲と言って、下座にいた人たちが全員で長渕剛の乾杯を肩をくみながら歌っていた。ちんぽ昇り龍の男もマイク無しで声を張り上げる。

笑いながらそれを見ていたら親分に肩を叩かれた。振り向くとこっちにおいでと手招きをしている。
本当はダメだが私は言う通りに親分の真横についた。

すると親分は私を持ったまま立ち上がり、私の腰に手を当てて言った。


「チューしよや」


え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
おやびんおやびんそこまで親密になろうとは思ってないよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

脳内が混乱するがおやびんの目はメチャクチャ真剣である。
私の目を一直線に見つめている。
というかたぶん私の奥にある昔の女を見つめている。

ちんぽ昇り龍たちは私と親分を見て歓声をあげながらより歌声に勢いを増す。サビが会場内を包み込む。

この場における正解とはなんだ!私はどうしたらいい!?親分の瞳を見つめ返し、決心をする。

 


乾杯!

 

今君は人生の

 

大きな大きな舞台に立ち


ムチューーーーーーーーーーー

 

親分との熱い接吻を受け入れてしまった。
仲間との別れで悲しむ親分に、元気になってほしい。
この気持ちが私の正解だったのかもしれない。

 


遥か長い道のりを歩き始めた。

 

君に幸せあれ

 

 

曲が終わり、締めの乾杯を終え、無事宴会は終わりを遂げた。
「生きて帰る」という目標はなんとか達成することが出来た。
人生はどうすれば良いかの選択肢の連続であるが、私が立たされた岐路はキスで良かったと自分に言い聞かせている。
なぜかって?


「お前その貧乳どうにかならんのんけ」


そうじゃないと別れ際に一言いった親分のハゲ頭をぶん殴りたくなったから。